同志社大学は、10月9日、同大大学院生命医科学研究科の舟本聡准教授と脳科学研究科の井原康夫教授らが、副作用のないアルツハイマー病治療に向けての新技術を確立したと発表した。研究は、ペプチドリーム株式会社、理化学研究所と共同で行った。
■研究の背景
アルツハイマー病は、脳内のアミロイドβたんぱく質(Aβ)の凝集、蓄積が原因で発症すると考えられているる。Aβは、アミロイド前駆体たんぱく質(APP)がβセクレターゼとγセクレターゼの2種類の酵素によって2段階に切断されてできる40個のアミノ酸から成るたんぱく質断片で、これら2つの酵素活性を抑制することがアルツハイマー病の予防・治療の最も効果的な方法と考えられる。
しかし、これらの酵素は生体内で重要なたんぱく質分解も担っているため、単なる酵素活性の阻害や酵素の欠損では生体に重篤な障害を引き起こすことがわかってきた。
最近、有望な抗Aβ療法として毒性の強いAβ42産生だけを抑制するγセクレターゼモジュレーターが注目されているが、治験では期待した効果が得られないケースや、家族性アルツハイマー病変異を持つγセクレターゼにはほとんど効果がないこと、アルツハイマー病脳のγセクレターゼではAβ42の産生抑制能が高くないことなどが報告されている。
そのため、抗Aβ療法に関して新しい発想にもとづいた治療・予防戦略が必要であり、研究グループは、γセクレターゼそのものを標的とするのではなく、γセクレターゼが切断するたんぱく質に着目し、新しい抗Aβ療法の開発に取り組んだ。
■研究の内容
これまでAβの産生を抑制するために、主にAβ産生酵素そのものの働きを阻害する薬剤の開発が進められてきた。ところが、この酵素は生体内でさまざまなたんぱく質を分解する重要な働きがあるため、全般的な阻害は重篤な副作用を引き起こしてしまう。
また、最近は、Aβの中で毒性の強いAβ42の産生だけを抑制する薬剤の開発も盛んに行われ、治験も実施されているが、期待される成果には至らず、Aβ産生を抑制する新しい予防・治療法の確立が望まれている。
研究グループは、γセクレターゼが切断するたんぱく質の特性(長さ)に着目し、γセクレターゼがAβのもととなるたんぱく質(C99)の先端部分を捕らえて切断することにより、Aβを産生することを明らかにした。
次に、C99の先端部分に結合するベプチド試薬(C99結合ペプチド)を開発し、その効果を検討したところ、γセクレターゼがC99の先端部分を捕らえることができず、切断できないことが判明。また、このペプチドはC99以外のたんぱく質切断には影響を与えないこともわかった。
これらの結果から、C99結合ペプチドは、Aβ産生を特異的に抑制できることを実験的に証明した。さらに、このペプチドはAβの産生のみならず、C99自体の産生も特異的に抑制することがわかり、1つの薬剤でAβ産生に関わる2つのたんぱく質切断を抑えることにつながり、一石二鳥の効果をもたらすことができたという。
この研究成果は、副作用の少ないアルツハイマー病予防や治療に役立つことが期待される。また、従来のような酵素を標的とする手法とは異なり、酵素が切断するたんぱく質(基質)に着目した創薬アプローチは、がんなどのほかの疾患にも展開できる可能性を秘めているという。
◎同志社大学
http://www.doshisha.ac.jp/