どう回避する?いつか降りかかるかもしれない「恐怖」-外岡弁護士に緊急インタビュー

埼玉県ふじみ野市の立てこもり事件で医師・鈴木純一さんが犠牲となった事件は、在宅の現場を担うケアマネジャー介護関係者にも大きな衝撃を与えた。ケアマネにもいつか降りかかるかもしれない「恐怖」を回避するためには、どんな工夫が必要なのか―。ケアマネジメント・オンラインで連載を執筆中の弁護士・外岡潤氏に緊急インタビューした。

―まずは今回の事件の受け止めをお願いします。
とにかくショックでした。私自身、介護関係者とともにトラブル解決のため利用者宅を訪問した際、暴言をぶつけられたりしたことはありますが、さすがに刃物や銃口を突きつけられたことはありません。

猟銃を突きつけられ、引き金を引かれる恐怖は想像を絶するものがあります。そして、その恐怖は、ケアマネも含めた高齢者や障害者の在宅生活を支えるあらゆる支援者に降りかかる可能性があるといえます。

―そうした危険から身を守るために、ケアマネや介護関係者には、どんな工夫と取り組みが求められますか。
まず、はっきりさせたいのは、今回のような最悪なケースは本当に例外的なものであって、ほとんどすべてのご利用者やご家族が、相手の命を奪うような極端な行動に走ることはないということです。

この点、日々、現場で関わっているケアマネの皆様であれば十分に実感されているかと思います。本件を過度に一般化して「ご利用者の弔問や、業務以外での訪問は全て拒否する」といったパニック的な行動を取る必要はありません。

それでも、今回の事件は紛れもなく現実に起きてしまったことです。

最悪、自分の命にかかわる可能性がゼロではないことを認識し、場合により最大限自衛していく心構えが必要でしょう。

■関係者と連携し「暴発のトリガー」を把握
万一の危険から身を守るために最初に心がけるべきことは、日頃から地域包括支援センターや関係機関や事業所と情報共有を密にしておき、暴発しやすい傾向がある人とその特徴を把握しておくことです。

―「暴発しやすい人の特徴の把握」とは、具体的にどういうことを把握しておくのですか。
今回の事件では、犯人は母親と自宅で生活を続けることに強い思い入れを持っており、医療機関などとの間で何度かトラブルを起こしていたという報道がありました。

こうした「暴発のトリガー」となりうる要素について、日頃からアンテナを張り、把握しておけば、危険を予知しやすくなります。なお、暴発しやすい人の特徴とはかかわりはありませんが、猟銃や空気銃、日本刀などの危険物を保管しているかどうかを前もって把握できれば、いざというときの判断に役に立ちます。

■暴発の可能性を察知したら、訪問を断るのが最善
―なるほど。どういう状況で暴発してしまうのかを把握し、対応するということですね。ならば、暴発のリスクが潜んでいそうな場合、どのように対応すればよいのでしょうか。
暴発の可能性がある以上、極力訪問・来訪を避けるのがもっともよいといえます。

しかし、暴発するような人は正論が通用せず、訪問や来訪を強く要求してくることもあるでしょう。あるいはモニタリングなど、業務上、どうしても訪問したり、来訪を受けたりしなければならない場合もあると思います。

そういった場合は、まずは複数の人で対応することをお勧めします。また、事前に地域包括支援センターや警察に連絡し、支援を求めることも考えられます。

訪問を求められたときに、用件を確認することも重要です。「とにかく来てくれ」といった、曖昧な理由で呼ばれた場合は危険です。電話で「目的が明確でなければお伺いできません。目的次第ではお伺いせずお電話やお手紙で対応することも可能であり、できる限りそうさせていただきたいと思います」などと説明し理解を求めます。

―訪問せざるを得ない場合、用意しておいた方がよいものなどはありますか。
ICレコーダーや携帯の録音アプリを用意しておけば、相手の言葉を正確に記録することができ、便利です。

ただ、いきなりICレコーダーを取り出すと、相手を怒らせてしまう場合もあります。法的には相手に告げず秘密録音することも合法であり、いざというとき裁判でも証拠として用いることができます。

なお、牽制の意味も込めて相手に録音することを伝える場合は、例えば「途中、お話を聞き逃してしまうことがあるかもしれません。念のため、ICレコーダーを使わせていただいてもよろしいでしょうか」など、丁寧に意思を確認しましょう。

■猟銃などの所持規制強化、職能団体が申し入れを
―今回のような事件からケアマネや介護関係者、医療関係者を守るため、国や自治体が取り組むべきことはなんでしょうか。
個人的に、本件は「犯人が所持していた銃で撃たれた」という点が最大の問題であると考えます。銃と包丁では殺傷力が大違いです。力の弱い人でも、銃を持てば簡単に人を殺せてしまうのです。

本件をきっかけとして、猟銃や空気銃の所持規制を強化すべきです。

今の銃刀法では、講習を受け医師の診断書を提出するなど、所定の手続きを踏めば誰でも猟銃を持つことが許されてしまいます。だが、このような事件が現実に起きてしまっては、もう怖くてご利用者宅を訪問する医師もケアマネもいなくなってしまいます。

そもそも銃を自宅に置き、やろうと思えばいつでも発砲できてしまうという状況はどう考えてもおかしく、危険すぎると思うのです。猟銃であれば本来の目的である狩りのときだけ手にすれば良いのですから、例えば、「普段は猟場内の公共施設で銃と実弾を保管してもらい、目的があって訪れた者にだけ、必要に応じて制限区域内でのみ使用してもらう」という方法が考えられます。

繰り返しになりますが、極めて高い殺傷能力がある銃が一般家庭において各人の良識のもとの管理に任されている現状は、どう考えても危険です。日本を銃社会にしてはいけないと痛感しました。

そして今回の事件は、業界全体とご利用者側との信頼関係に大きな断裂を生じさせかねない、深刻な事件です。医師やケアマネなどの職能団体が連携し、銃刀法の改正を求める請願などを政治の世界に強く申し入れていくべきではないでしょうか。

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