公明党は10月の衆院選で、ケアマネジャーの国家資格化を検討することを公約に掲げた。今後の議論をけん引するのが、医師であり、党内で唯一ケアマネの資格を持つ秋野公造参院議員だ。秋野議員は厚生労働省の元医系技官で、医療・介護分野の政策にも明るく、現在は同党の社会保障制度調査会で事務局長を務める。また、昨年12月に議員立法で成立した「生殖医療補助法」の法案提出者の1人でもある。国家資格化のキーパーソンとなる秋野議員に、今後の展望などを聞いた。【聞き手・敦賀陽平】
■公明党が先に案を作る
―自民党は総合政策集「J-ファイル」で、直近2回の選挙時(2017年衆院選、19年参院選)に掲げていた「介護支援専門員の国家資格化を目指す」との文言を削除しています。与党内で温度差がある中、どのように検討を進めますか。
自民党と公明党で与党プロジェクトチームを立ち上げて検討するか、それぞれの党内で検討した結果をすり合わせて自公案とするのが、与党における一般的な議員立法のプロセスだと思います。自民党には議連(日本ケアマネジメント推進議員連盟)があり、公明党は社会保障制度調査会で検討すると決めておりますが、超党派で話し合う議連はありませんから、与党が主導することになると思います。
その上で、公明党は、国家資格化を検討することを公約に明記しましたが、自民党のスタンスが明確でない以上、公明党だけで案を作って、自民党に協議をかけるという形にせざるを得ないかと思います。
ただ、こうした話はよくあることで、私は昨年12月に議員立法である「生殖補助医療法」を成立させることができましたが、実は、公明党案を先に作り、自民党に照会をかけて、自公案を作り、自公案を野党の皆様に示して、賛同してくださる各会派と共同で法案を提出しました。ですから、公明党が先に案を作ることについて違和感はありません。
―「J-ファイル」の文言削除は、自民党側の熱意が冷めたと受け取らざるを得ませんが…。
もしそうだとすれば、大変残念に思います。
―法案には、政府が提案する「内閣提出法案(閣法)」と、衆参それぞれの議員が発議する「議員立法」の2つがありますが、ケアマネ創設時に国家資格にしなかったという経緯を考えると、厚労省が審議会の議論を通じて法案をまとめ、政府提案とするのは難しいのでしょうか。
最近、国家資格に関わる法案は議員立法で対応することが主流になっています。以前、厚労省老健局の大島一博局長(現政策統括官)から「(ケアマネについては)議員立法でやってもらうしかない」と言っていただいたことも、私たちが議員立法で検討することになった契機の一つです。
■国家資格化のチャンス到来?!
―ケアマネの資格をお持ちですが、秋野さんご自身は、ケアマネを国家資格にすべきだとお考えですか。
私は医師でもありますので、ケアマネが今後、健康保険上の役割も担うのであれば、むしろ、国家資格化は避けて通れないと思います。
かつては、主に健康な高齢者が介護保険を利用する時代もありましたが、今は障がいをお持ちの方も介護を受ける方も、何らかの疾患を抱え、その重症化と向き合いながら暮らしています。例えば、生活習慣病などを抱える高齢の障がい者も増えるなど、要介護者や要支援者に対して健康保健がカバーする領域そのものが広がっています。
介護保険の中だけで生きていくケアマネであれば、既に介護保険法で定められているので、国家資格にする必要はないかもしれませんが、健康保険における診療上の評価(診療報酬)は、国家資格が前提となります。ケアマネが健康保険上の役割も担うのであれば、ケアマネを国家資格として位置付けざるを得ないでしょう。そうしないと、診療報酬上の評価もできません。
そもそも、ケアマネは、医療と介護をつなぐ役割を期待されています。医療が必要な要介護者が圧倒的に増えている以上、少なくとも医療と介護の谷間の部分に向き合わざるを得ないでしょう。ですから、今のケアマネをそのまま国家資格にすることが妥当なのかどうかも含めて、検討していく必要があると思います。
―プラスアルファの機能を加えることもあり得るということでしょうか。
はい。そう思うのですが、限定する可能性も含めて検討が必要です。法定化するためには、ケアマネが提供するサービスや機能を明確にする必要があります。国家資格化を検討することは、現状の課題を整理することにもつながるので、とても意義のあることだと思っています。
日本介護支援専門員協会の会合で2度、講演とディスカッションをさせていただきましたが、参加者の皆さんが抱く「国家資格」のイメージはばらばらのように感じました。主任ケアマネを国家資格にしたいと考える方もいらっしゃれば、幅広くケアマネを国家資格にしたいと考える方もいらっしゃいました。
既存の国家資格の上位資格になるのかと疑問を呈する方もいらっしゃれば、現行の研修の扱いも議論が必要です。ただ、国家資格化を検討する際は、国民のためになる、すなわちケアマネジメントの質を上げるという視点が不可欠です。
最近では、ヤングケアラーも社会問題となっています。また、障がいをお持ちの方が65歳になると介護保険へ移行する、いわゆる「65歳問題」もある。ケアマネは今後も、介護保険の世界だけで生きていくのか。あるいは、介護保険だけでなく、健康保険や障がい福祉サービス上、どのような役割を担うべきなのか。さまざまな分野の谷間を埋める役割を期待されているのであれば、国家資格にするチャンスが来ていると言えるのかもしれません。
■課題はケアマネの法律上の定義
―今後の検討に向けた課題はありますか。
法定化するケアマネの定義をどうするのかが、やはり課題となります。一般的に法案を作成する際は、まず定義を決めます。国家資格化する目的を定め、その上で国家試験や養成校などの部分を詰めていきます。ケアマネのどの機能を国家資格化するのか。特に健康保険上の役割を担うのであれば、その他の隣接資格との境界を明らかにすることはものすごく大事になります。
―隣接資格というのは、例えば、社会福祉士のことですか。
一番近いところだと、社会福祉士になるのでしょうか。そうであれば、社会福祉士との役割分担を明確にする必要があります。ただ、定義が決まらないのならば、どの資格が隣接しているのかさえ申し上げられません。
それから、現状のケアマネの資格をどう扱うのか。なお、主任ケアマネは現在、介護保険法に定められておりませんので、主任ケアマネを法定化するという方法もあるかもしれません。
―今後、党内でどのように検討を進めていきますか。
公明党の社会保障制度調査会で議論することになります。現時点においては、そこで案をまとめることができれば、自民党に照会をかける流れになるのでしょうか。同時に、職能団体である日本介護支援専門員協会のお考えを共有しながら、共に協議していく必要があります。
2024年度には、診療報酬と介護報酬、障がい福祉サービスの“トリプル改定”があるので、それぞれの、また連携して質を高める議論も行われるでしょう。それに向けてまずは、早急に検討を始めたいと思います。
CMOの取材に応じた秋野議員