来年2月からの介護職員の賃上げをめぐり、厚生労働省は8日、社会保障審議会介護給付費分科会を開き、居宅介護支援や介護予防支援などを事業の対象外とする方針を改めて示した。これに対して、日本介護支援専門員協会の濱田和則副会長らから反発する声が上がった。
8日にオンラインで開催された分科会
政府は先月19日に閣議決定した新たな経済対策で、来年2~9月、介護職員の賃金を現行の3%程度に当たる月額9千円引き上げる措置を盛り込み、今年度の補正予算案で事業費として約1千億円を計上した。
■対象は処遇改善加算の取得事業所
厚労省はこの日の分科会で、来年2~9月の賃上げの原資となる補助金について、現時点での支給対象などの概要案を説明した=図=。
それによると、補助金は「介護職員(常勤換算)1人当たり月額平均9千円の賃金の引き上げに相当する額」とし、国は、介護職員の人数(常勤換算)に応じて必要な加算率を設定、各事業所の総報酬にその加算率を乗じた額を支給する。
補助金は全額国費で賄われ、事業所の申請を受けた都道府県が国に交付申請を行った後、事業所側に支給される流れだ。
支給対象は、現行の介護職員処遇改善加算(I)~(III)を取得している事業所。同省は「事業所の判断により、他の職員の処遇改善にこの処遇改善の収入を充てることができるよう柔軟な運用を認める」とする一方、同加算を算定できない居宅介護支援や介護予防支援、訪問看護、訪問リハビリ、福祉用具貸与などを対象から外す方針を改めて示した。
■ケアマネ協会・濱田副会長「大変残念だ」
同省の説明に対し、一部の委員からは、居宅介護支援事業所のケアマネジャーらも対象に追加するよう求める声が上がった。連合総合政策推進局の小林司生活福祉局長は、「介護分野全体の底上げを図るためにも、ケアマネ、訪問看護、福祉用具専門相談員、事務員など、介護現場で働く全ての労働者を対象とすべきだ」と要望した。
また、日本介護支援専門員協会の濱田副会長は、居宅介護支援と介護予防支援を対象外とする同省の方針について「大変残念だ」と述べた上で、ケアマネの雇用環境をめぐる厳しい現状を訴えた。
濱田副会長は、「居宅介護支援事業所や地域包括支援センターに勤務する介護支援専門員、主任介護支援専門員の業務が拡張している中で、人材の確保は深刻な状況になっている。その一因として、業務量と賃金の不均衡が指摘されている」とし、「40歳以下の年齢層では、無資格者を含む介護職員の方が、介護支援専門員よりも高いという逆転現象が起きている」と指摘した。
その上で、「居宅介護支援事業所や地域包括支援センターをはじめ、各種の事業所・施設に勤務する介護支援専門員や主任介護支援専門員が、社会的な役割に見合った評価を得られる環境づくりが必要だ」と強調し、居宅介護支援と介護予防支援を賃上げの対象に加えるよう改めて求めた。
濱田副会長の発言を受け、田中滋分科会長(埼玉県立大理事長)は「重要な問題意識だ。私も同感だ」と同調した。
■委員の発言は今後の財源確保に集中
ただ、来年2月からの賃上げの対象拡大について、この日は大きな議論は起きなかった。政府は来年10月以降、新たな処遇改善の仕組みを構築する方針を示しており、委員の発言は、今後の財源の確保に集中した。
仮に介護報酬を財源とする場合、保険料や自己負担の引き上げにつながる一方、介護サービス事業者にとっては、基本報酬などを増やすための原資が減る可能性が高い。このため、事業者側と利用者側の双方の委員からは、介護報酬を財源とすることへの慎重論が相次いだ。
全国老人保健施設協会の東憲太郎会長は、「現場職員の処遇改善を介護報酬という公定価格の中で手当てをすることは限界がある。現在の介護報酬の中でも、介護職員処遇改善加算と介護職員等特定処遇改善加算という2つの処遇改善加算が設けられているが、この2つの加算についても、本来の介護報酬とは別財源で確保すべきものだと考えている」と主張した。
その上で、「介護報酬上の対応となった場合、新たな処遇改善の財源は、現時点での介護報酬の総額に上乗せされる。次期以降の介護報酬改定では、処遇改善にかかる費用は、介護報酬の改定率から除外される制度設計をお願いしたい」などと要請した。
また、日本医師会の江澤和彦常任理事は、「(来年2~9月の)8カ月で1千億円なので、年額に直すと1500億円になる。この額は、この4月の介護報酬改定が、コロナ分を除くとプラス0.65%だったので、その2倍程度の手当てを要することになる。大変難しい課題だ」とし、「果たして、介護報酬での対応が可能なのかどうか。おそらく、多くの方は限界点に達していると考えていると思う」と述べた。