新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点から、ケアマネジャーの業務にも柔軟な対応を認める方針が打ち出されている。「感染防止のためには有効な方針ですが…。勘違いする人がいないか、それが心配です」。そう語るのは、日本ケアマネジメント学会副理事で、ケアマネとしても20年近くのキャリアを持つ白木裕子氏=写真=だ。白木氏は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、在宅の現場では大きな環境の変化が起こり、新たな課題が生じつつあると指摘。「自らの感染を防ぐこと。ほかの人にウイルスを運んでしまわないこと。その2点に深く配慮しつつ、生活を支えるという原点に立ち返り、できる限りの取り組みをしなければならない」と力を込める。白木氏に緊急インタビューした。
■柔軟な対応=業務軽減ではない!
―現場のケアマネの「勘違い」とは、具体的にどのようなことを指しますか。
端的に言うと「柔軟な対応が認められた」ことを、「単に業務が軽減された」と思い違いをすることです。例えば、感染拡大防止のため、月に一回の訪問を、電話による状況確認で代用することが認められるようになりました。しかし、これによって「月に一回だけ、利用者に電話すればいい」と思い違いしてしまう人がいないかが気がかりです。そんな勘違いをするケアマネは多くないと思いますが、関係団体のホームページなどで、勘違いを助長するような表現が散見されるため、心配しています。
大きな環境の変化が起こり、利用者にもその家族にも、新たな課題が生じている現実を思えば、むしろ、ケアマネがやるべきことは増えているとすら思います。
■「家族と過ごす時間の増加」がはらむリスク
―大きな変化や新たな課題とは、どういったことですか。
まず、デイサービスなどの通所系サービスを使えなくなった人の増加が挙げられます。もう一つは、在宅勤務や外出自粛によって、利用者とその家族が同じ家の中で過ごす時間が急に増えたこと。いずれも利用者にとっては、新たな課題を生みかねない変化です。
―確かにデイサービスを使えない人の増加は、深刻な課題ですね。しかし、家族と利用者が一緒にいる時間が増えることが、どうして課題なのでしょうか。
利用者と過ごす時間が増えることで、家族に負担とストレスが増すからです。そのストレスがたまったままでは、利用者への虐待が起こってしまう恐れがあります。学校の休校と外出自粛により、児童や生徒へのドメスティック・バイオレンスが増加したとの報道がありましたが、同じことが在宅介護の現場で起こっても何の不思議もありません。
―そうした現状において、ケアマネがやるべきことは何でしょうか。
改めて「利用者の生活を支える」という原点に立ち返ること。そして、利用者やその家族の生活に新たな課題や変化が生じていないかを把握し、必要に応じて対応することです。具体的には、いつもよりも少し多めに電話連絡などを入れ、入浴・食事・運動・内服状況や家族の精神的負担感などの具体的な生活状況の把握に努めましょう。
時には訪問しなければならないケースもあるでしょう。当然のことですが、訪問の際は感染防止対策を徹底して下さい。具体的には、「健康状態の確認」「マスク着用」「利用者と話す際は2メートルの距離を置く」「換気」を心掛けてください。同じことを利用者やその家族に徹底してもらうことも大切です。それから利用者宅から出たら、手洗い・うがいをすることも忘れずに。
■ウイルスの「運び屋」にならないために、対策の徹底を!
―そのほか感染拡大防止という点で、心掛けるべきことはありますか。
事業所内での3密を避け、感染拡大を封じる対策が不可欠です。複数のケアマネが勤務する事業所であれば、テレワークの導入などの工夫をしましょう。また時差出勤や出勤する日をずらすなど、同じ時間に複数のケアマネが働かないようにする取り組みも有効です。さらにドアノブや共用のボールペン、パソコンなどのこまめな消毒や、事業所内の換気も忘れてはなりません。自分自身の健康管理としては出勤前と勤務時間内の体温測定などを行いましょう。これらの感染防止対策については、決まった時間に行い、実施したことも記録に残しておくとよいでしょう。
同居家族に熱発者や風邪症状などの体調不良者がいる場合は、上司に報告して出勤を控えるなど、細心の注意を払いましょう。
とにもかくにも、自らがウイルスの「運び屋」になってしまう危険があることを十分に認識し、徹底した感染拡大防止策を講じてください。