地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都老人総合研究所)は、7月19日、第121回老年学公開講座「あきらめない介護予防」を開催した。
同センターでは、これまでに高齢者の食や認知症、老化予防などをテーマに公開講座を開催。121回目の今回は、「あきらめない介護予防」のタイトルのもと、同センターの研究員を講師に、高齢者にとって深刻な排尿障害と膝の痛み、介護者のストレスについて講演が行われた。それぞれの講演について3回にわたって報告する。
最初の講演は、自立促進と介護予防研究チーム 研究副部長の金憲経氏による「排尿障害を軽減するために」。
講演では、まず排尿の仕組みから説き起こすことで、尿をためる時や尿を排出する時に重要な役割を果たし、尿失禁の治療にも深く関わる尿道括約筋など骨盤底筋について理解をうながした。
ついで、高齢期に多い排尿障害のひとつである頻尿の説明がなされた。頻尿は、原因に前立腺炎や糖尿病などが潜むことがあり、起こり方で過活動膀胱と神経性膀胱の2種類に分けられる。頻尿の対策は、過活動膀胱の場合は、意識的にトイレに行く間隔を延ばすこと、神経性膀胱は、頻尿を意識しすぎないことがポイント。頻尿の家族に、「またトイレに行くの?」など声をかけるのは逆効果という指摘もあった。
この日の講演の中心になったのが尿失禁。尿意がないにも関わらず、尿をもらすことが定期的にあるのが尿失禁で、加齢に伴う老化現象のひとつだ。女性に多いと言われてきた尿失禁だが、近年は男性にも増えているという。
「尿失禁には、腹圧性尿失禁と切迫性尿失禁の2種類があります。腹圧性尿失禁は、くしゃみやせきをしたり、笑ったりしておなかに力が入った時に尿がもれるもので、女性に多い。切迫性尿失禁は、突然強い尿意が起こり、トイレに間に合わずに尿がもれてしまうもので、男性に多い傾向があります」
東京都健康長寿医療センターでは、尿失禁の有症率などについての調査を実施。それによると、75歳以上の地域高齢者で尿失禁がある人は43.5%。そのうち毎日尿もれがあるのは約2割で、9割は軽い症状だった。問題なのは、尿失禁の有症者で病院を受診した人は全体のわずか10.4%ということ。
「命に別状はない、恥ずかしい、として受診をためらう人は多いですが、尿失禁は老化の過程で起きる自然なこと。恥ずかしく思うことはありません。むしろ放置することで、生活や健康にさまざまな弊害を及ぼします」
調査結果では、尿失禁の約7割が頻尿を伴っていることが明らかになり、なかには夜間に13回トイレに行く人も。夜間頻尿で熟睡できないと日中の活動が低下するほか、睡眠不足で意識がもうろうとし、転倒につながる危険もあるという。
「さらに尿失禁の影響で、約4割の人が外出や運動を控えるようになり、約3割が友人・知人のつき合いに支障が生じていることが判明しました。尿失禁のために活動が制限され、閉じこもりにつながることが懸念されます」
高齢期の健康や暮らしを大きく損なう尿失禁。治療には手術療法・薬物療法・行動療法があるが、骨盤底筋運動などを行う行動療法ではかなりの改善度が認められるそう。また、腹部に脂肪が多いと骨盤底筋に負担がかかるので、肥満の解消もポイント。
「当センターで70歳以上の尿失禁者に、尿道括約筋などを鍛える骨盤底筋運動と、腹部の脂肪を落とす運動の指導を3ヵ月行い、1年後に追跡調査をしたところ、54.5%が完治するという結果が得られました」
恥ずかしい、不快、においが気になるなど切実な悩みでありながら、隠されてしまがちな尿失禁。本講演で示された客観的データが広まることで、尿失禁対策に取り組み、健康で活動的なシニアが増えることが願われる。
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