日本老年医学会は、6月27日の理事会において、高齢者の終末期における胃ろうなどの人工栄養補給の導入や中止、差し控えなどを判断する際の指針となる「立場表明」を承認したと発表した。
同会は既に2001年に「高齢者の終末期の医療及びケア」に関して立場表明を行っているが、この10年の変化に合わせて、より実情に即したものにするために、改定を発表することとなった。この指針が、さまざまな困難に直面している医療者に対して、また、高齢者本人に最善の医療やケアを提供し、家族の心の平安を保障する上で役に立つことを目指している。表明された指針は以下の11項目。
特に注目すべきは、胃ろうなどの処置で延命が期待できたとしても、本人の尊厳を損なったり、苦痛を増大する可能性がある場合は、治療の差し控えや治療を中止するなども選択肢として考慮するべき、と明記している点。
【立場1】年齢による差別に反対する
いかなる要介護状態や認知症であっても、高齢者は最善の医療やケアを受ける権利があることから、年齢による差別に反対する。そのため、胃ろう造設を含む経管栄養や気管切開、人工呼吸装着などにより、患者本人の尊厳を損なったり、苦痛を増大させる可能性があるときは、治療を差し控える選択もある。
【立場2】個と文化を尊重する医療及びケア
わが国には、専門家を信頼して全てを委ねるという考え方や、何事も運命として受け入れるという考え方など、欧米とは違う「死生観」を生み出した文化的背景がある。そうした背景を十分に配慮しつつ、患者個々の死生観、価値観、思想・信条・信仰を十分に尊重した終末期医療やケアが行われなければならない。ただし、高齢患者は意見が不安定で流動的で、自己表現を十分にできないこともある点に留意し、認知機能が低下している場合は、過去の言動などをもとに、家族と十分に話し合って、可能な限り患者の意思を尊重する必要がある。
【立場3】本人の満足を物差しに
高齢者の終末的医療やケアにおいて、死への恐れを軽減し、残された期間のQOLの維持・向上に最大限の配慮がなされるべきである。
【立場4】家族もケアの対象に
高齢者の終末的医療やケアにおいては、家族などが重要な役割を担うため、家族などの援助が患者への援助につながる。患者が死に行く過程にあることを家族が受け容れるための支援や、患者の死後における家族のグリーフケアも忘れてはならない。
【立場5】チームによる医療とケアが必須
高齢者の終末的医療やケアは、チームアプローチが望ましい。チームには家族なども含めた、医師、看護職、介護職、リハビリテーション担当者、心理士などが、具体的な意見交換を行うことで、質の高い支援が可能となり、よりよい成果が期待できる。
【立場6】死の教育を必修に
医療・介護・福祉従事者など、終末的医療やケアに携わる者は、死の教育、終末期医療やケアについての実践的な教育を受けるべきである。
【立場7】医療機関や施設での継続的な議論が必要
医療機関や施設は、高齢者や家族の意思決定の支援と「最善の医療やケア」実現のために、終末期の医療やケアについて議論する倫理委員会を設置すべきである。
【立場8】不断の進歩を反映させる
すべての終末期の医療やケアに関する考え方、決定のプロセス、方法、技術については、それらが患者のQRLの維持・向上に有益であるという「科学的根拠」の確立や「標準化」を目指す努力や研究を継続すべきで、そのために十分な資金の拠出が必要である。
【立場9】緩和医療およびケアの普及
高齢者のあらゆる終末期において、緩和医療やケアの技術がひろく用いられるべきである。
【立場10】医療・福祉制度のさらなる拡充
あるべき「終末的医療・ケア」の実現のためには、制度的・経済的支援が不可欠である。
【立場11】日本老年医学会の役割
高齢者の終末期医療やケアについて、今後も科学的検証を進めて、広く国民も交えた議論を続ける必要がある。
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