介護保険制度改定最新情報――厚労省介護保険指導室長講演(1)

特定非営利活動法人「楽」は、1月25日、厚生労働省老健局の担当者を講師に招き、2012年度介護保険制度改定とその展望についての最新情報をテーマに講演を行った。

講師の介護保険指導室長、千田透氏は冒頭で、「介護業界は8兆円産業、20兆円産業、50兆円産業だと言われている。いろいろなことができるということを念頭においていただきたい。共通の概念としては、処遇改善をみんなで図っていこうということで、報酬改正に伴って人材確保、処遇改善のために費用を使ってもらいたい。それをしないと、次期改定のときに報酬が下がってしまう。それを見据えてやってもらいたい」と話した。

主な内容は以下の通り。

【展望と今後の視点】
75歳になると要介護認定率が爆発的に増える。その75歳以上の人口割合が現在の10人に1人から、2030年には5人に1人(1,000万人増)、2055年には4人に1人と上がっていく。しかも、人口は減り、収入は増えず、社会保障給付費は急激に伸びる。社会保障制度を維持するためには、医療介護を必要としない高齢者を増やしたり、年金に依存することなく労働力として税金を払う側に向けていく、リバースモゲージの利用、海外からの労独力の受け入れなどを考えていかなければならない。

【社会保障・税一体改革が目指す介護の全体像】
今回の制度改正で、社会保障・税一体改革が目指せるのではないか。「支援を必要とする人の立場に立った支援体制」「地域で尊厳をもって暮らす」ために、例えば、特養では、地域における在宅拠点機構を重視し、老健施設では在宅復帰機能の強化を図り、医療介護の連携として入退院の連携の強化などを目指す。認知症は2025年には300万人を超えると言われているが、認知症の診断ができる医師が少なく、治療も確立していないし、ケアの普遍化もできていない。そうしたことへの対応も必要になる。

【支援が必要な高齢者
都市部では、急速に高齢化が進み、特に、65歳以上では単身世帯や夫婦のみの世帯が増えていく。こうした人たちは問題が見えづらく、深刻な事態になりやすいので、周囲からの働きかけが必要。貧困ビジネスのターゲットになることもある(業者は、デイサービスの送迎車を追いかけて対象者を探すことも)。男性は群れをなすのが苦手で、対応できる個別的なプログラムの開発も必要。その一方、「男は調理や家事ができない、だから生活支援をする」のではおかしい。男への教育も必要。介護は男の問題だと言える。

【地域に必要なサービス】
保険給付になじまない生活支援(配食、外出の付き添い、移送、ゴミ捨て、電気交換など)、安全・安心のための支援(仲間作り、見守り、訪問、災害時要支援者マップ作りなど)、判断能力が不十分な人への支援(金銭管理支援など)に対して、すべての地域で実施する基盤整備が必要。こうした余計なお世話を考えないと制度が立ち行かない。自分の地域がどうなっているかを、事業者の立場、市民の立場で意識してほしい。

【地域包括ケアシステムの構築と社会保障・税の一体改革】
地域包括ケアシステムという概念は介護保険以前からあったもの。介護保険料が5000円超に見込まれる点からも、既存サービスにプラスして考える必要がある。コーディネート役は地域包括支援センター介護保険サービス以外に、「認知症支援策の充実」「在宅医療の推進」「住まいの計画的な整備」「見守りや配食など多様な生活支援サービス」をプラスした総合的なシステムを、ニーズ調査に基づいて作り上げる。そのため、同センターの負担にならないように、居宅介護支援事業所への委託制限(1 人 8 件)を廃止した。

この改革により、2025年には24時間対応の訪問サービス、グループホームや小規模多機能サービスなどの充実、介護予防事業により自立した高齢者の社会参加の活発化、介護職員の安定的な確保と仕事への満足感の向上などの実現を目標とする。

医療介護の提供体制の将来像】
人口1万人程度、小中学校区レベルで、日常的な医療かかりつけ医・薬局・訪問看護)・自宅での介護サービスが提供され、人口20〜30万人レベルで地域の基幹病院機能、都道府県レベルで救命救急・がんなどの高度医療への体制を整備する。ただし、介護のことを知っていて理解を示してくれる医師がどれほど確保できるかが課題。

【24時間地域巡回型訪問サービス】
現在の訪問介護の課題としては1日あたりの訪問回数が少ないと共に、1回あたりの滞在時間が比較的長くなっていること。特に、要介護1、2の方が長い傾向にある。新たに創設する「24時間地域巡回型訪問サービス」は、必要なタイミングで必要な量と内容の介護看護サービスが提供されることが前提となる。課題としては、介護看護の一体的に提供できる体制作り、利用者からのコールをオペレーターが適切に対応する体制作り。職員配置としては30分以内にかけつけられる範囲が適切。報酬体系としては、現行の時間単位制に基づく出来高方式ではなく、一定の範囲内で包括定額方式を採用する。事業実施に当たっては、需給バランスを考えないと赤字になってしまう。

【複合型サービスの創設】
現行では別の事業所で受けなくてはならなかった小規模多機能型居宅介護訪問看護のサービスが一緒に受けられるように、複合型事業所を創設する。これにより、現在は不十分だった小規模多機能型居宅介護医療ニーズの高い要介護者への対応の充実が図られる。事業所としても柔軟な人員配置が可能となる。

介護予防・日常生活支援総合事業】
市町村の判断により、介護予防・日常生活支援・権利擁護・社会参加のための多様なサービスを総合的に実施できる制度を創設する。「介護予防の切り捨てではないか」という意見があるが、現行の予防給付で対応するか、混合でやっていくのかは各市町村が判断できる。

介護職員等によるたんの吸引等の実施】
実施に当たっては事故などのリスクもあるので、より安全に提供されるように法整備を行う。医師の指示書の下に行われること、記録の整備が必要。

【事業者による労働法規の遵守の徹底】
労働基準法等に違反して罰金刑を受けている者等については、指定拒否を行うことができる。小規模多機能では守るのがむずかしいかもしれないが、罰金刑を払うとオーケーなので、それほど心配することはない。

高齢者の住まいの整備】
医療介護サービスが受けられる高齢者住宅を創設し、「24時間対応の定期巡回・随時対応サービス」などとの組み合わせの普及を図る。既に同住宅は3万戸分が予算化され、2020年までに660万戸が確保される。税制上の優遇措置があり、新たな事業者が爆発的に参入してきている。貧困サービスがはびこることも考えられるので、先に善意あるみなさんに参加してもらいたい。業界にも「適正」マークを作ってほしいと要望している。

【地域ニーズに応じた事業者の指定】
居宅サービスについては都道府県が指定するが、定期巡回・随時対応サービス事業者は市町村が公募を通じた選考で指定できるようにする。また、居宅サービスについても、市町村との協議制が導入される。これは画期的なこと。

【保険者による主体的な取組の推進】
地域密着型サービス等については、市町村独自の判断で全国一律の額以上の報酬を設定してもよい。これも画期的なこと。ただし、それに伴い、保険料が上ることになる。

地域包括支援センターの機能強化】
同センターは介護サービス事業者医療機関、民生委員ボランティア等の関係者との連携に努めること、市町村は委託型の同センターに対して、業務を丸投げすることなく運営方針を明示すること。

【報酬改定】
介護報酬の改定率は、プラス1.2%(在宅1%、施設0.2%)となった。どこにも財源はないのでマイナスだと思っていたからまずはよかった。これは、処遇改善交付金分を報酬に直した2%を含むもので、実質は0.8%の引き下げとなる。その理由としては、介護職員の処遇改善、物価の下落状況、介護授業者の経営状況(今回、ケアマネ事業所以外は利益が出ている)、地域包括ケアの推進などを踏まえた。やっと取れた数字。診療報酬は0.004%だった。

改定の方向としては、介護サービスの効率化・重点化と機能を強化する観点から、施設から在宅介護への移行を図る。介護予防・重度化予防については、真に利用者の自立支援になっているかを見直す。介護職員の処遇改善を確実に行うために、事業者が人件費に充当するための加算を行うなど必要な対応を講じることとする。

【持続可能な制度の構築に向けて、】
質の高いケアプランを作ること。ケアマネ事業所がしっかりしないと在宅はできない。自立支援ケアプランと言わなくてはならなというのは情けない話。いつごろから言われているのか。私はケアプラン作成の1割負担を入れたかった。それくらいしないと質が図れないのではないかと思っている。

ケアマネジメントも含めて、今後、介護の質の評価が問われるのではないか。高額所得者は2割にすればいいのではないか。経営の見直しなど、効率化を図る議論が2、3年後にする必要がある。

【その他の改定のポイント】
1) 訪問介護の生活援助の時間区分が見直されて45分以上、45分未満に分かれ、単価が変わっている。45〜60分は単価が引きあがっているので、時間を見直してみるといいのではないか。ダラダラやっているのを防ぐ。家事支援をしているわけではない。見守りの示唆で取れるかも知れない。ケアマネと連携しながらやるとか。身体介護を見直して20分未満の単位数を入れた。

2) 2級ヘルパーのサービス提供者がいたら報酬を10%減算する。これは、積極的に1級にとってもらいたいという意向。ただし、1年間の経過措置がある。

3) 訪問介護で、事業所と同一の建物に一定数の利用者がいる場合については減算する。

4) 大きい変更は、管理責任者が、従業員ではなく、利用者に対しての配置に変わったこと。利用計画を見直してもらいたい。

5 ) デイサービスでは、時間区分が5-7、7-9に変わった。単価も6-8よりも7-9の方が高い。12時間預けられるようになり、よりレスパイト機能が求められている。送迎の時間、人員配置の考え方、かかる費用、ローテーションを考えなければならない。複合型については、要介護3で25万1,100円。看護の部分が2万弱くらい上がる。グループホームでは、要介護1,2に固まっているところは事業が厳しくなる。夜間ケア加算などを見直して、なおかつ、処遇改善加算という形で入ってくる。加算率は処遇改善交付金と同じ。訪問介護4%、小規模4.2%、グループホーム3.9%、特養2.5%など。事務的に加算を取り直さなくてはならないから大変なのだろう。余ったらどうするかなどの課題がある。

6 ) 市町村ごとの介護報酬水準を定めた地域区分を5区分から7区分に変更する。横浜・川崎は12%、横須賀は10%。

質問1)【広域型の訪問介護について】
事業者の指定、公募することについて。基本的に更新時に恣意的に指定をしないということは想定していない。

質問2)【利用者の1割負担について】
基本的には1割負担は変わらない。保険はその年のものをその年に使うのが原則。サービスの向上、自然増分をどうするか。利用者に負担を求めようという議論も将来的にはあるかもしれない。高額所得者についてどうするか。韓国では在宅と施設で負担額が違うという例もある。

質問2)【24時間型の訪問介護訪問看護について】
プランはケアマネ事業所が作成する。24時間の介護計画はサービス提供者が作成してそれをケアマネ事業所が評価する。限度額はそのまま維持される。ただし、これを使いつつ、デイやショートを使うときは、限度額を超えないように一定額を減額する。通所利用した場合、1日分の3分の2を減算するなど。

質問3)【サービス付高齢者住宅の入居者像】
65歳以上なら誰でも入ることができる。サービスに見合う形で入居者を募集しても問題ない。要介護3以上にすると、採算が取れるなどと考えることは可能。

質問4)【入退院時連携のケアマネ事業所の報酬について】
月ごとに150単位だったのを、入院連携加算ということで200単位にする。医療機関に訪問をしない場合は100単位にする。退院対処加算(月600単位)をなくして、1回あたり300単位で3回、900単位までとする。緊急時カンファレンス加算を作る。病院と診療所の職員と、ケアマネが一緒に居宅でカンファレンスをして居宅サービスの利用調整を図ると1回200単位、複合型サービスへ情報を提供すると、小規模の事業者との連携で300単位。

質問5)【地域包括事業について】
包括の評価について今はない。これは考えなくてはいけない。保険者から委託か直営か。全面委託になっているところもある。

――厚労省介護保険指導室長講演(2)へ続く

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