神戸市は来年から、認知症の人が起こした火災などの被害に遭った市民に見舞金を支給するなど、全国に先駆けた認知症対策に乗り出す。新たな事故救済制度の創設などを盛り込んだ条例の改正案が5日の市議会本会議で可決、成立した。年約3億円を見込む費用については、市民税を1人当たり年400円増額することで確保する。市民からは増税に反対する声もあったが、市では「認知症は誰でもなり得る」として理解を求めている。
2016年秋に市内で開かれた日米欧の先進7カ国(G7)保健相会合では、認知症の早期診断や患者の生活環境の改善に取り組むとする「神戸宣言」が採択され、これを踏まえ、今年4月には「神戸市認知症の人にやさしいまちづくり条例」が施行された。
■認知症を早期発見、検査費用を全額補助
今回の条例改正は、▽認知症の人の早期受診を促すための「診断助成制度」▽認知症の人が外出時などで事故に遭った際の「事故救済制度」―の2つの制度の創設が柱だ。
「診断助成制度」は、認知機能を調べるための検査費用を市が全額負担するもので、医師会の協力を得て年明けの1月にも開始する。地域の医療機関で認知症の疑いの有無を確認し、疑いがあると診断された場合は、専門の医療機関で精密検査を受けてもらう。精密検査は保険診療になるが、検査費用の負担分を「償還払い」で払い戻す。
■診断後は3つの支援、保険金は最大2億円
来年4月にもスタートする「事故救済制度」は、認知症と診断された本人に対する支援と、市民を対象とした支援の2つに分かれる。
具体的には、認知症の診断を受けた人(監督責任を負った家族を含む)が、万が一の事故で賠償責任を取らされた場合に備え、市が保険に加入し、その保険料も負担する。保険金は最大2億円が支給される予定。さらに、事故が起こった際、24時間体制で相談に応じる専門のコールセンターを設置するほか、GPSを活用した駆け付けサービスの費用の一部を補助する。
一方、認知症の人が起こした火災などで市民が死亡すると、賠償責任の有無にかかわらず、最大3千万円の見舞金が支払われる予定。見舞金の支給は、当事者が事故後に認知症と診断された場合も対象となる。
市によると、こうした一連の制度の創設は全国初。市では、来年1-3月までに必要な経費について、今年度の補正予算で約4千万円(広報費を含む)を計上している。同年4月以降の予算に関しては、2月の市議会に予算案を上程する方針。
市では、19年度からの3年間に試行導入した後、その効果を検証する方針で、5日の本会議では、期間中に市民税を1人当たり年400円引き上げることが承認された。