
年齢を重ね、歩くのが少しゆっくりになったものの、買い物に行ったり、友達と会ったりしながらごく普通に自宅で暮らしていた70歳代後半の女性がいました。女性はある日、右ひざに痛みを覚え、病院を受診しました。すると医師から、内視鏡によるひざの手術を提案されました。入院期間は10日ほどと言われ、それで膝の痛みがなくなるならと、女性は手術を受けることにしました。
そして10日間の入院期間を終えて自宅に帰った女性は、入院前とは全く違ってしまっている自分の脚に驚きました。ふらついてしまい、一人では歩けないのです。ひざの痛みは消えましたが、10日間の入院生活で見た目にもわかるほど脚の筋肉が落ちてしまったのでした。
女性は、元通りになることを信じて、再び筋肉をつけるためにリハビリに励みました。それから2年。女性は今も杖が手放せません。一人で買い物に行くのは難しくなり、長時間立って調理することもできなくなりました。リハビリは続けていますが、これ以上の回復は難しいだろうと言われています。
「こんなことになるとわかっていたら、手術などしなかったのに」と女性は嘆きます。
高齢者の体は、若い時とは違います。わずか1週間程度の入院でも、はっきりわかるほど筋肉が落ちます。転倒による骨折が怖いのは、脚の筋肉が衰えて再転倒のリスクが高まると同時に、入院中の刺激の少ない生活のせいで、時には認知症を発症する場合もあるからです。だから、高齢者の転倒には十分すぎるほど注意が必要なのです。
高齢者の入院は若者の入院とは違う。高齢者本人も家族も、そのことは十分、頭に入れておいた方がよいでしょう。もし入院する必要が生じたら、入院期間はできるだけ短く、そして、できるだけ面会に通い、刺激をたくさん与えていただきたいと思います。
「こんなはずではなかった」ということにならないために。




