
高齢者が大勢入院している病院に勤めていたリハビリ職に聞いた話です。
普段車いすに座ったきり、いつも表情も乏しく、ほとんど積極的な活動をしない女性Aさん。食事を自分で食べるのも、車いすを動かすのもほとんど介助を受けて暮らしています。
リハビリ職によるAさんの機能評価では、両手を上げるのは難しいだろうとのこと。個別のリハビリをしても、Aさんの手の機能はなかなか回復しませんでした。
ある日、そんなAさんも含め、みんなで紙相撲大会を開きました。これは、紙で折った力士を線で囲った土俵の中に向かい合せに立てて、それを前に、向かい合って座る二人が机をトントンとたたいて力士を動かすゲーム。力士が土俵から出たり倒れたりした方が負けというルールです。
Aさんはいつも元気で陽気なBさんと対戦。いつものように無表情でしたが、職員から促されて机をトントンとたたくうち、張り切るBさんの力士を倒して勝つことができました。
負けて悔しがるBさんを目の前にし、Aさんを取り巻く職員の方がむしろ興奮。「Aさん、すごいよ! ほら、Bさんに勝ったんだよ、バンザーイ!」と言ったところ、Aさんは無表情のまま、上がらないはずの両手を挙げて、「バンザイ」のポーズをとったのです。
周囲の職員はみな茫然。Aさんは手が上がらないはずではなかったのか? と顔を見合わせました。
高齢者に限らず、誰でも機能訓練は気が進まないもの。やっていても楽しくないからです。しかしゲームとなれば、話は違います。
話を聞かせてくれたリハビリ職がそれに気づいたのは、以前、個別リハビリをするまでの待ち時間に、みんなで風船バレーをやってもらったとき。
リハビリを10分、15分やってもらっても「疲れた」と言って嫌がる高齢者が、みな夢中になって1時間以上続けていたのを目にしたからだったそうです。
そのリハビリ職も、まさかAさんの両腕が頭の上まですんなり上がるとは思ってもみなかったそうですが。
その気になれば、体は動くもの。いかにしてその気にさせるかが、介護職や家族など、周囲の人間の腕の見せ所なのですね。




