
ある老人ホームで。
糖尿病の入居者が食事についての不満を訴えました。「味が薄くてまずい。食事だけが楽しみなのに、生きている甲斐がない」。
そのホームは、食事に自信を持っているホームでしたので、このような不満の訴えは非常に不本意でした。しかし、栄養士は糖尿病食とはそういうもの、と言うだけです。
介護職は皆で集まり相談しました。
何とかこの入居者に、「食事がおいしい」と言ってほしい。どういう方法があるだろうか。家族の意見も聞き、糖尿病食はこれ、と言って譲らない栄養士も交え、何度も話し合いを重ねました。そして、夕食の量を減らすことで、普通の味付けで食べてもらえるようにしたのだそうです。
量を減らしてもカロリーや塩分はややオーバーしているため、糖尿病の病状把握はそれまで以上に綿密に行うようにしました。血糖値が上がるリスクについては家族にも話して、この試みの了承を得たそうです。
いざ、普通の味付けの食事を出したとき。入居者は、量の少なさがやや不満そうではありましたが、「おいしい」「食事はこうでなくちゃ」と、とても喜んでくれました。
何かにつけ、不機嫌そうな顔を見せることが多かった入居者でしたが、笑顔が格段に増えたそうです。
カロリーや塩分がオーバーするため、ホーム内ではこの試みに反対する意見もありました。しかし、病状の把握を徹底し異変があったらすぐに中止するということで、この食事を提供しました。食事を食べた入居者の嬉しそうな様子を見て、反対していた職員も思わず笑顔になったそうです。
介護をしていると、状態が今以上に悪くならないように、ということに注意が向きがちです。しかし楽しみもなく長生きするのと、多少、リスクがあっても楽しく生きるのと、どちらの人生のほうが幸せでしょうか。
リスクを最小にしながら、楽しみを最大に。そんな介護を心掛けていきたいものです。




