まさに新型コロナウイルス一色となった2020年。感染者の増加に歯止めがかからない中、来年春の介護報酬改定と併せて行われる運営基準の見直し案には、居宅介護支援を含む全ての介護サービス事業者に対して、感染症や災害などの対策を強化することを義務付ける項目も盛り込まれている。今回は、それらの内容を中心に解説したい。
見直し案では、全事業者を対象とした項目として、(1)感染症対策の強化(2)業務継続に向けた取組の強化(3)ハラスメント対策の強化(4)会議や多職種連携におけるICTの活用(5)利用者への説明・同意等に係る見直し(6)記録の保存等に係る見直し(7)運営規程等の掲示に係る見直し(8)高齢者虐待防止の推進(9)CHASE・VISIT情報の収集・活用とPDCAサイクルの推進―が盛り込まれている。
このうち(1)(2)(8)に関しては、委員会の開催や研修の実施などを義務付けているため、3年間の経過措置期間が設けられている。
(1)では、委員会の開催や指針(ガイドライン)の整備、研修の実施などに加え、感染症の発生・まん延に備えた訓練(シミュレーション)を行うことも義務付けられる。施設系サービスでは、既に感染症予防に関する委員会の設置が義務となっているが、それ以外のサービスでは、新たに委員会を立ち上げる必要がある。
(2)では、感染症や災害が発生した場合でも、必要な介護サービスを提供し続けられるよう、業務継続計画(BCP)の策定を求めている。また(1)と同様、研修や訓練の実施も義務付けられる。
(8)は、高齢者の虐待防止の取り組みを強化する目的で新設されるもので、利用者の人権擁護などに関する委員会の開催や指針の整備、研修の実施に加え、事業所・施設内における担当者の決定も義務化される。
■利用者・家族からのハラスメント対策を義務化
(3)は、介護人材を確保する観点から新たに設けられる。背景にあるのが、利用者や家族からのハラスメント被害だ。利用者からハラスメントを受けた経験がある介護従事者は、特別養護老人ホームで7割を超えるなど、事態は深刻化しており、職員の安全を守る取り組みを徹底させるため、全事業者に対策を求めることとなった。
■会議・多職種連携でテレビ電話の活用も可能
(4)と(5)は、ケアマネジャーの実務にも影響する項目と言える。(4)は、会議や多職種連携の際のテレビ電話などの活用を認めるというもので、業界団体などの要望を受け、コロナ禍での例外的な措置を恒常化する格好だ。ただ、利用者が参加する場合は、利用者の同意が必要となることに加え、居宅を訪問して行うモニタリングなどは対象外となる点に注意してほしい。
(5)は、介護現場のICT化の推進や「脱はんこ」に向けた取り組みで、ケアプランや重要事項説明書など、書面で利用者に説明して同意を得るものに関して、データ(電磁的記録)でのやり取りを認める。またこの見直しに合わせて、署名・押印以外の方法で利用者から同意を得ることができることを明確化するとともに、様式例から押印欄が削除される。
(6)と(7)も、介護現場のICT化の推進に関する項目だ。(6)は、保険者などが介護サービス事業者に求めている記録の保存や交付などに関して、データでの対応を認めるというもので、いわゆる「ローカルルール」を解消する観点から、国がその範囲を明確化する方針も併せて盛り込まれている。また(7)は、運営規程などの重要事項の掲示について、データファイルなどを代用することを認める。