ケアマネは知っている「実は災害に弱い人」―防災とケアマネ・後編

いつやってくるかわからない災害に向け、普段からケアマネが備えるべきことや、取り組むべきことは何か―。東日本大震災での被災を経験して以降、市と市のケアマネジャー協会が協働し、防災減災に向けた取り組みを続けている千葉県旭市の活動を通し、考える。

■震度6強を想定した机上訓練
今年1月15日、旭市で実施された災害机上訓練には、同市内のケアマネや保健師、ヘルパー、施設関係者約80人が参加。「1月15日午後2時、最大震度6強の地震が発生し、津波警報が発令された。気温は7度、天気はくもり」「停電した地域あり。電話は不通」「ガス・水道は使えない」「幹線道路は通行規制中。鉄道は運転見合わせ」といった条件の下、訓練を開始した。

参加者は「居宅介護支援事業所」や「通所介護」「訪問介護」「特別養護老人ホーム」「地域包括支援センター」などのグループに分かれ、それぞれの立場で、どのような対応をするかを検討した上で、他の事業所への情報提供や利用者の受け入れを依頼するなどの活動に取り組んだ。


(旭市の災害机上訓練)

訓練終了後、参加者からは、次のような課題が指摘された。

「利用者の安否確認は大切だが、まずは職員の被災状況を把握することも大切」
「各事業所は発災後、被害状況を包括支援センターに連絡することが、防災マニュアルにも定められているが今回の訓練では、それが不十分だった」
「避難所の受付をする人は介護医療の知識を持っていない職員かもしれない。その点を配慮してケアマネや介護医療関係者は情報を提供すべき」

■「踏み込むべきだったのか」3・11から続く悩み
今回の机上訓練を企画し、その進行役を務めたのは、同市内で主任ケアマネとして活動する井上創さんだ。井上さんや井上さんの仲間が防災への取り組みに力を入れ始めたきっかけは、東日本大震災での被災経験だった。

9年前の3月11日、旭市には高さ7.6メートルの津波が押し寄せ、3827世帯が損傷。死者・行方不明者は16人に達した。井上さんが働く事業所には津波は来なかったものの、液状化によって建物が傾くなどの被害が出た。

「最も大きな津波は午後5時くらいに来ました。困ったのは、津波が来たその地域に担当する利用者がいたことです」

井上さんは、安否を確認するため歩いてその利用者の家に向かった。利用者にけがはなかったが、波はそのベッドの下まで達していた。井上さんからの連絡もあり、震災発生の翌日には利用者は救助された。

この時の対応について、井上さんは今でも悩み続けている。二次災害が起こるかもしれない地区に、ケアマネが一人で踏み込むべきだったのか―。この点について、いまだに答えが出ず、悩み続けているのだ。

「その悩みがあるから、非常時にケアマネができることとできないことを、あらかじめはっきりさせておくべきだと思うようになりました。そして、ケアマネ一人ではできないことは、他の専門家と力を合わせて対応できる体制を整えておくこと必要だと強く実感するようになったのです」

井上さんたちが机上訓練を実施したり、ケアマネ向けの防災支援マニュアルを作成し、定期的にその内容を更新し続けたりしているのは、そんな思いからだ。


(井上創さん)

■行政とケアマネ、役割分担して安否確認を
こうした活動が功を奏したのか、昨年秋の台風15号の襲来後も、旭市では、発災から4.5日以内にすべての高齢者の安否確認を終えた上、その内容を市の地域包括支援センターで把握することができた。

これまでの経験を踏まえ、井上さんは災害直後の安否確認の在り方について、次のように提言する。

「在宅の要介護者に関する対応はケアマネ、それ以外の独居高齢者などの対応は地域包括支援センターをはじめとした行政、といった風に役割をはっきりわけて対応すべきでしょう。さらにケアマネは業務を通して個別の状況を把握している。リストや世帯状況だけでは分からない『実は災害に弱い人』の情報を、行政や関係者と共有すべきです」

『実は災害に弱い人』とは、例えば同居する家族はいても、日中は一人で過ごしている時間の多い要介護者などを指す。日中独居とも言われる人々だが、こうした人の場合、災害が発生するタイミングによっては、独居の要介護者と同じ状態になる。だが、行政が把握している情報では家族と同居していることになっているため、安否確認はどうしても後回しにされがちだ。

その点、ケアマネは、担当している利用者については、だれが日中独居かまで把握しているのが普通だから、より実態に即した対応が可能だ。

■「まじめで使命感が強い人ほど…」
さらにケアマネには、被災者への長期的な支援も期待されるという。

介護が必要な高齢者や障がい者の中には、周囲の復興・復旧の速度についていけず、取り残されたようになる人が少なくありません。毎月一度は訪問するケアマネは、復興・復旧から取り残された人の声を聴き、支える上で最も適切な職種の一つといえます」

発災直後だけでなく息の長い被災者支援も期待されるケアマネだが、一方でケアマネ自身も被災によって、疲弊していくことも想定される。この点について井上さんは、BCP(事業継続計画)の工夫と管理者の細かな配慮が不可欠と力を込める。

「まじめで使命感が強い人ほど、頑張りすぎてしまいます。管理者は、その点をしっかり認識し、同僚や部下が頑張りすぎないよう、マネジメントすべきです。例えば、発災から1週間ほどの時期は、疲れがたまり、ちょっとした事故が起こりやすい難しい時期ですが、BCPに発災一週間後くらいの時期から、ケアマネの業務を減らし始めるなど工夫を盛り込んでおけば、スムーズに乗り切ることができるでしょう」

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