電気が途絶えた街で起こったこと―防災とケアマネ・前編

残念ながら災害の記憶は、少しずつ薄れていく。ほんの半年、文字通り東日本を激しく“揺さぶった”台風の被害の記憶すら、もう薄れ始めているのかもしれない。日本中が防災の在り方を見つめ直す今日、改めて半年前の記憶を呼び覚ましつつ、いざというとき、ケアマネジャーがどのように振る舞うべきか、日々、備えるべき事柄は何かについて考えたい。

■吹き荒れる暴風、「信号は消え、電柱は折れた」
後に「令和元年房総半島台風」と命名された台風15号が関東に上陸したのは昨年9月9日の未明だった。千葉県鴨川市の福祉総合相談センターで主任ケアマネとして活動する小坂重樹さんは、まだ夜が明けきらない午前4時ごろ、センターへの出勤を求める連絡を受けた。

「車で出勤しましたが、恐ろしかったのは、街はまだ暗いのに信号が消えていたこと。また、路上には、いたるところに倒木やはがれ落ちたトタンが転がっていました」

この日、房総半島では最大瞬間で57メートル超の猛烈な風が吹き荒れた。鴨川市内では鉄筋コンクリートの電柱ですら「く」の字に折れ、市内で停電した家屋などは1万8100軒に達した。幸い、命を落としたり、けがをしたりケアマネはいなかったものの、避難所に逃れたケアマネはいた。


(小坂重樹さん)

■停電が阻んだ支援リストの活用
同センターの主任保健師でケアマネとしても活動する田中和代さんは、停電が、ケアマネや介護医療関係者の活動を思わぬ形で妨げたと語る。

「センターそのものも停電してしまったことで、パソコンの中に保存していた支援を必要とする人のリストが使えなかったのです。このリストを使った安否確認が実施できたのは13日からのことです」

センターの電源が復旧するまでの4日間、自宅の要介護者や支援を必要とする高齢者らの安否確認は、居宅介護支援事業所のケアマネをはじめとした介護従事者らのネットワークが頼みの綱だったという。ただし、停電が続いている地区では、電話による確認はできない。

「結局、停電している地区での安否確認は、車で戸別訪問して確かめるしかありませんでした」(小坂さん)

車で回る、といっても道のいたるところに倒木や飛来物が散乱していた上、電柱の周囲には、外れた電線が垂れ下がっていた。二次災害を防ぐため、ケアマネが2人1組で回ったり、ケアマネと訪問看護師がいっしょに訪問したりしたという。さらに16日には、千葉県介護支援専門員協議会を通じ、日本介護支援専門員協会から派遣された2人のケアマネ(神奈川県介護支援専門員協会所属)も加わり、市内の高齢者の安否確認を行った。

■山間部での停電、「救急車を呼ぶにはどうしたら」
とりわけ厳しい対応を迫られたのは、山間部である同市長狭地区だった。この地区の高齢化は45.1%。自家用車を手放した高齢者も少なくない。そのため、支援物資が届けられた地区の公民館まで出向くことができない高齢者もいた。

「そうした高齢者に対しては、ケアマネさんや、県外から入った保健師の支援チームに支援物資を配ってもらいました」(小坂さん)

長狭地区では、地区全体が停電し固定電話は使えなくなった。現地のケアマネの事業所からは「利用者宅から救急車を呼ぶ時はどうしたらいいのか」といった問い合わせもあったという。携帯電話が通じなくなった地区も多かったため、ちょっとした連絡を取るだけでも、通話できる場所まで車で移動しなければならない場合もあった。

「電気が止まると、SOSすら出せなくなる人がいる。その現実を改めて突き付けられました」(田中さん)

また、厳しい残暑の中、停電で冷蔵庫が使えなかったことも在宅の高齢者の生活を圧迫した。


(田中和代さん)

認知症の人の中には、冷蔵庫が機能を止めた結果、中の食材が傷んでしまったことをわからない人が少なくありませんでした。新しい食材を買い出しに行こうにも商品が鴨川市内にあまり入ってこない状態も続きましたし…」(田中さん)。

さらに冷房が使えなかったことは、在宅の高齢者の命すらも脅かした。鴨川市では犠牲者は出なかったものの、隣接する南房総市では、熱中症によって命を落とした高齢者も出た。

■次の台風への対応で生かされた体験
長狭地区を含め、鴨川市での停電がほぼ復旧したのは発災から約2週間後のことだった。そして、それから約半月後の10月12日、台風19号が襲来した。のちに「令和元年東日本台風」と命名されたこの台風も、鴨川に強い暴風雨をもたらしたが、この時は、直前の経験が十分に生かされた。

「停電になっても即応できるよう、支援が必要と思われる高齢者らのリストは台風が来る前に印刷しておきました。また、居宅介護支援事業所に対しては、被害状況はファックスで連絡してほしいと事前に連絡した上で、台風の通過後、一定の時間までに連絡が来なければ、こちらから確認に行くことなども伝えました」(田中さん)

こうした取り組みが功を奏し、「令和元年東日本台風」が去った13日には、市内のほとんどすべての居宅介護支援事業所が利用者の安否確認を開始できた。しかし、それでも課題は残されたという。

ケアマネから『道路状況もはっきりしない状況で、安否確認に出向くのは二次災害を招きかねないのではないか』という声が上がりました。また、確認した情報をいつまでにセンターに連絡すればいいのかが明確でなかった点を改善点として指摘したケアマネもいました。さらに、災害ボランティアにより活躍してもらうためには、応援を受け入れる受援体制を整えるのも大切ですが、この点も、今のところ不十分と言わざるを得ません」(田中さん)

そのほか、ケアマネが被災した際の具体的な対応を前もって想定しておくべきとする声も上がったという。

こうした課題を解決するには、平時からの準備が不可欠だ。12日に配信する後編では、今年1月に災害机上訓練を実施した千葉県旭市の取り組みを取り上げる。

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