“押印ありき”でケアマネが思考停止に―印鑑不正の背景とは?

京都府八幡市の社会福祉協議会ケアマネジャーが、利用者に無断で印鑑を不正使用した問題で、原因を調べていた社協の第三者委員会はこのほど、調査報告書を公表した。報告書を読むと、過去の実地指導で押印漏れを指摘されたことで、“押印ありき”の組織風土が醸成され、ケアマネが思考停止に陥っていたことがわかる。事業所内では一体、何が起こっていたのか―。今回の一件を「他山の石」とするためにも、報告書の中身を詳しく紹介したい。

第三者委員会は6月に設置され、メンバーは学識経験者や弁護士、専門職の代表ら5人。9月末までに4回の会合を開き、担当した6人のケアマネへの聞き取り調査も行った。

■第1表の4割で印鑑を不正使用

今回の不正のポイントは、▽ケアマネが利用者139人分、重複分を含む145本(※)の印鑑を保管していた▽このうち利用者の許可を得ていたのは24本だった▽印鑑の保管は、10年ほど前から慣例となっていた▽ケアマネ個人が判断し、自費で印鑑を購入していた▽印鑑は、居宅サービス計画書とサービス利用票で使用されていた▽利用者宅を訪問せず、不正に押印したケースもあった―の6つ。

報告書では、社協が行った内部調査の詳細も記されている。それによると、2014年度から18年度までの5年分のケアプランの印影について、社協側が、ケアマネが保管していた印鑑と照合した結果、サービス利用票の約3割、居宅サービス計画書の約4割で不正使用が確認された。

社協側は、署名の筆跡やサービス担当者会議の「要点議事録」「支援経過書による訪問確認」についても調べたが、不正の証拠が不十分として、いずれも「結果の特定が困難」とされた。

※複数のケアマネは「過去に処分した印鑑があった」と話しているが、第三者委員会での確認・実証が困難だとして、報告書では145本を確定数としている。

■使用把握も、事業所内のタブーに

第三者委員会は7月12日、管理者を含む6人のケアマネに聞き取り調査を実施。その結果、過去の実地指導の際、書類への押印漏れを理由に介護報酬の返還を指摘され、それが不正のきっかけとなっていたことがわかった。

「必ず印鑑だけは押されている状態にして記録を残すこと」―。これが事業所の“至上命題”となり、その考え方がケアマネにたたき込まれていたという。3人のケアマネが「先輩から『書類は押印がすべて』と指導を受けていた」と話していたことが、それを物語っている。

「良心をとがめられながら押していた」「印鑑を無断使用することについては、駄目だと思っていた。抵抗感もあった」など、不正であることを自覚しているケアマネがいた一方、「この事件があって初めてサインでも良いと知った」「書類に押印されていないと駄目だと思っていた」と、署名による同意が可能であることを知らないケアマネもいた。

同委では、「介護保険法の運営基準に定められた文書の『説明』『交付』の同意について、利用者のやむを得ない事情を記述することや、署名または押印でも構わないという取り扱いを理解している者は一人もおらず、口々に『知っていれば』との後悔の言葉があった」としている。

あるケアマネは、「他のスタッフが使用していることは知っていたが、この会話は職員同士でお互いに触れないようにしていた」と打ち明けた。また管理者のケアマネは、「他の職員が印鑑を所有・保管していたことはわかっていた。私自身引っ掛かりはあったが、『単純な押し忘れ』と思っていた。業務的に大変だとわかっていたため、そこまで厳しく言えなかった」と話している。

■「ペナルティーは覚悟している」

なぜ、ケアマネは不正に手を染めたのか―。聞き取り調査では、「プランと変更と訪問とで心身の余裕がなく、無断で印を押していた。精神障害認知症の方、家族の留守の方について押していた」「苦手な利用者、怖いイメージがある利用者に繰り返し押印要請を言いにくく、使用したことがきっかけ」といった声も。中には、被保険者証の再発行の際に使用したケアマネも複数いた。

利用者2人のモニタリング訪問を怠っていたにもかかわらず、無断でサービス利用票に押印したというケアマネは、「所長には言っていない。今回の事件が起きてしばらくして伝えた。利用者はすごく良い方で、夜勤されていて大変なのにおもてなしされるため、かえって申し訳なく、ついつい訪問したことにしてしまった」などと釈明し、「ペナルティーは覚悟している」とも語っている。

■「特段の事情」の話題はなく…

第三者委員会は、「認知症精神障害等による意思疎通の困難性、当事者の意志を代弁する家族や後見人等の連絡困難など、やむを得ない状況により、印鑑を預かるきっかけになったことが確認できた」とする一方で、「十分に対応可能な利用者の印鑑まで購入して、保管・管理することが常態的になったことは、組織としてのガバナンスが不十分であったと言わざるを得ない」と断じた。

複数のケアマネは、「書類に押印してもらうのをよく忘れ、再度押印のためだけに訪問するのが大変だったので、無断で押していた」と話しており、報告書では「印鑑を所有していることから、訪問時に同意を得た結果として押印をもらう行為そのものが軽視され、安逸に流されていった傾向と考えられる」とした。

現行の居宅介護支援の運営基準では、「特段の事情のない限り」、「少なくとも一月に一回、利用者の居宅を訪問し、利用者に面接すること」「少なくとも一月に一回、モニタリングの結果を記録すること」と定めている(第13条14項)。

運営基準の例外となる「特段の事情」について、同委は「介護支援専門員は5年更新の研修の中で、また主任介護支援専門員も更新時の研修の中で、事例を通して話はされているはずのものだ」とした上で、「6名介護支援専門員がいる中で、普段そういう話がされていなければならないが、そうはなっていなかった」と指摘した。

■事業所のガバナンス強化など提言

第三者委員会の報告書は、法令順守に関する理解や職員同士のコミュニケーションの促進など、事業所内のガバナンスの強化を求めるとともに、認知機能が低下した利用者から同意を得る際のマニュアルの作成なども提言。「罪はにくむべきものである。しかし悔い改められたる罪ほど美しきものはない」(「善の研究」第4編第4章)とする哲学者・西田幾多郎の言葉で結ばれている。

◎八幡市社協のホームページ

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