日本医療研究開発機構は、「微弱なノイズ電流が高齢者の体のバランス機能を改善し、刺激を停止した後も長い間、体のバランスを安定化させる」という研究結果を発表した。
内耳に存在する「前庭器官」は体のバランスを保つのに重要な役割をもっているが、高齢者はこの働きが悪く、20~50%が体のバランスの障害を発症させている。それにより、転倒のリスクは上昇し、さらには骨折・寝たきり・認知症の大きな原因のひとつとなっている。
しかし、高齢者の前庭障害は、従来の治療では改善しないことが多く、これまで有効な治療法がなかった。
東京大学医学部附属病院 耳鼻咽喉科・聴覚音声外科の藤本千里助教、岩﨑真一准教授、山岨達也教授らの研究グループはこれまでに、耳の後ろに装着した電極より微弱なノイズ電流を加える、経皮的ノイズ前庭電気刺激(nGVS)により、健常者と両側前庭障害を有する患者において、体のバランスが改善することを明らかにした。
これまでの研究では、短い時間(30秒間)の刺激中の改善が示されただけであり、長期的な改善方法については、解明されていなかったが、本研究では、高齢な健常者に30分間nGVSを加えたところ、刺激を停止した後も数時間にわたり身体のバランスが安定化する、という新しい現象をとらえた。
この研究成果は、常に電流の刺激をしなくても体のバランスが持続的に改善することを示し、治療への応用に有効であると考えられる。
本研究グループは今後も、nGVSの両側の前庭障害を有する患者に対する長期的なバランス改善効果を証明する試験を行う予定であり、その効果が証明できれば、nGVSが両側前庭障害によるバランス障害に対する、世界初の科学的信頼性の高い治療法となるものと期待される。
◎国立研究開発法人 日本医療研究開発機構
http://www.amed.go.jp/news/release_20161121-02.html