認知症に関する書籍は数多く発行されているが、日本評論社から4月に発行された『治さなくてよい認知症』が、各方面から注目を浴びている。
筆者の上田諭氏は、新聞記者から医師になった代わり種。東京都老人医療センター(現・東京都健康長寿医療センター)精神科などを経て、現在、日本医科大学(東京都文京区)精神神経科に勤務すり精神科医。
認知症の治療は、症状を抑えるための投薬療法などが主で、周囲で支える家族や介護職に比べ、医師ができことは少ない。
数多くの認知症患者の治療をしてきた過程で、医師として「本当にこれでいいのか」と逡巡した筆者が、「認知症は治らない。でも、できることがある――“薬”より“生活の張り合い”を!」と語る、診療現場からの渾身のメッセージ。
【目次】
序章 認知症治療とは何を「治す」のか
専門医は誰のほうを向いて仕事しているか/認知症の人の表情が消える瞬間/認知症を考える二つの視点
第1章 忘れてもいい、できなくてもいい
認知症は治らない病気である/治らなくていい、治さなくていい/長寿礼賛ーーなぜ認知症を問題視するのか/
認知症の人が失うもの/間違ったメディア情報
第2章 生活を診る視点
自己肯定感の回復/生活を診ないのは治療放棄/「張り合い」ある生活/皮相なメディアの見方
第3章 本人を中心にした診察
本人への精神療法/本人を認め、広がる信頼/家族への介護・対応の指導/告知にメリットがあるか/「早期発見、早期絶望」になっていないか
第4章 BPSDを生む対人心理のゆがみ
精神的反応としてのBPSD/「キットウッドの公式」の重要性/ユマニチュードの実践に学ぶ/妄想を生む心理的背景を考える/自分が主役である場所をつくる/密着した介護を避け、デイサービスを/家族の嘆きに答えて
第5章 もっと厳密にすべき認知症診断
認知症診断があいまいな現状/画像や認知評価で診断はできない/「認知症」との誤診から回復した事例
第6章 単純化の病ーー精神科臨床の大きな問題(1)
「症状に処方」の大きな問題点/現場の事情が優先する状況/薬を出す前に原因を考える/BPSDへの対応は「薬物療法三割、非薬物療法七割」/おかしな情報の氾濫
第7章 二極化の谷間にある認知症ーー精神科臨床の大きな問題(2)
どの科が認知症を診るか/精神科医のアイデンティティとは/オーガニック派vs.メンタル派?
第8章 「張り合い」の作り方ーー介護サービスの活用
認知機能向上の秘訣/どうやって受診につなげるか/デイサービス利用の始め方/援助の逆効果に注意
ご本人へのメッセージ
ご家族(介護する方)へのメッセージ
■著者/編集:上田諭
■出版社:日本評論社
■価格:1600円+税
■サイズ:単行本
■ページ数:188p
■ISBNコード:9784535984073
◎日本評論社
http://www.nippyo.co.jp/