熊本大学文学部認知心理学研究室では、認知症や下半身の運動障害のない健常高齢者において、速く歩ける人ほど記憶力が優れることを視覚的ワーキングメモリという記憶に関して明らかにした。大学院社会文化科学研究科博士後期課程1年の川越敏和と文学部 積山薫教授が高齢者の運動能力と認知機能との関係を調べる研究を実施し明らかにした。
今回の研究において、ワーキングメモリ成績と運動能力との強い相関は、手先の器用さでは見られず歩行に限られていた。このことから、早足での歩行ができる運動能力を維持することで、認知症に関連するような認知機能低下を抑制できる可能性が考えられる。ワーキングメモリは、高齢者では急速に低下することが知られている。
この低下の度合いと歩行能力との関連については、これまで呈示された文字をどの程度覚えているか、といった音韻ワーキングメモリでは測定されていたが、一貫した関連が示されていなかった。
今回の研究ではワーキングメモリの種類に着目し、これまで測定されてきた音韻ワーキングメモリに加え、人の顔を記憶する顔ワーキングメモリ、場所を記憶する空間ワーキングメモリにおける機能低下の度合いと歩行能力との関連について測定した。その結果、顔・空間ワーキングメモリにおいて歩行速度との強い相関が確認された。このような強い結びつきは音韻ワーキングメモリには見られなかった。これまでの高齢者研究において、ワーキングメモリの種類は重視されることはなかったが、今回このように大きな違いが存在することが明らかになった。
◎熊本大学
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