国立がん研究センターは、12月9日、食事パターンと自殺との関連についての研究成果を発表した。
日本の自殺者は、2012年に15年ぶりに3万人を下回ったが、1998年以降毎年3万人を超えている。自殺に関連する要因として、心理社会的要因についてはよく知られているが、環境要因、特に食事要因についてはあまり分かっていない。そこで、同センターでは食事全体を考慮した食事パターンを用いて自殺との関連について検討した。
その結果、大豆製品やきのこ類、海藻類、脂の多い魚などの「健康型」の食事パターンで自殺のリスクが減少することがわかったという。
【研究の概要】
1990年と1993年に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、東京都葛飾区、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の11保健所(呼称は2011年現在)管内に住む40~69歳の人のうち、研究開始から5年後に行った食事調査票に回答した男女約9万名を2005年まで追跡した調査結果にもとづいて、食事パターンと自殺との関連を調べた。
研究開始から5年後に行った食事調査票の結果から、134項目の食品・飲料の摂取量により、野菜や果物、いも類、大豆製品、きのこ類、海藻類、脂の多い魚、緑茶などが関連した「健康型」、肉類・加工肉、パン、果物ジュース、コーヒー、ソフトドリンク、マヨネーズ、乳製品、魚介類などが関連した「欧米型」、ご飯、みそ汁、漬け物、魚介類、果物などが関連した「伝統型」の3つの食事パターンを抽出した。
■「健康型」食事パターンで、自殺のリスクが5割低下
5年後、調査時の3つの食事パターンについて、各対象者におけるパターンのスコアにより4つのグループに分類し、その後約8.6年の追跡期間中に発生した自殺(249名、このうち追跡開始4年以降の自殺は163名)との関連を調べた。
その結果、男女ともに「健康型」食事パターンのスコアが高い群では低い群に比べ、追跡開始4年以降の自殺のリスクが約5割低下していた。「欧米型」と「伝統型」食事パターンは自殺リスクとの関連はみられなかった。
もともとうつ傾向のある人は、食事パターンや自殺のリスクがうつによって影響を受けている可能性がある。そこで、うつ傾向の指標として精神的ストレスの強さで分けて調べたところ、精神的ストレスが低いまたは中程度の群では、「健康型」食事パターンは自殺のリスク低下と関連していたが、精神的ストレスが高い群ではこのような関連はみられなかった。
今回の研究では、男女ともに、野菜や果物、いも類、大豆製品、きのこ類、海そう類、脂の多い魚、緑茶などが関連した「健康型」食事パターンにより自殺のリスクが低下するという結果が得られた。その理由として、この食事パターンのスコアが高い群では、葉酸や抗酸化ビタミン(ビタミンCやカロテン)の摂取が多いことによると考えられる。葉酸や抗酸化ビタミンは、自殺の危険因子として知られているうつに対して予防的に働くことが報告されており、食事パターンとして総合的にみることで、これらの栄養素の相乗効果も期待できる。
ただし、この研究で用いた食事パターンの分類は、食事調査で摂取量を測定した134品目をもとに行われました。それ以外の食品が含まれたり、対象者が異なったりすれば、パターン分類は違ってくる可能性がある。
◎国立がん研究センター
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