理化学研究所と横浜市立大学、神奈川県立がんセンターは、9月12日、細胞の防御反応に関わる遺伝子の一塩基多型を調べることで、肺がん患者の予後と女性非喫煙者の肺腺がんリスクを予測できる可能性を臨床研究によって見いだしたと発表した。
肺がんによる死亡者数は世界中で年間137万人にのぼり、がん死の中で最も多く全体の18%を占めている(2013年WHO「Fact sheet」より)。日本でも肺がんは全がん死の19.7%を占め、男女ともに全がん死の中で最も多い死因であり(国立がん研究センターがん対策情報センター「2009年最新がん統計」より)、早期発見や治療法の開発が課題となっている。
さらに、日本の肺がん死亡率は近年増加傾向を示しており、特に高齢者ではこの傾向が顕著となってる。肺がんは小細胞肺がんと非小細胞肺がんに大別され、小細胞肺がんと、非小細胞肺がんに属する扁平上皮がんは、喫煙との関係が大きいとされている。一方、肺腺がんは代表的な非小細胞肺がんの1つで、非喫煙者の女性に発生する肺がんの主流となっているが、その原因はよく分かっていない。
共同研究グループは、インフォームドコンセントを得た387人の肺がん患者の血液試料からゲノムDNAを抽出し、遺伝子多型解析を実施した。その結果、NRF2遺伝子のSNPと肺がん患者の治療後の臨床データとの関係を調べた結果、SNPホモ接合体を持つ肺がん患者は、肺がんの外科手術後の5年生存率が良好と分かった。一方、SNPホモ接合体を持つ女性非喫煙者では、肺がんの一種である肺腺がんになるリスクが男性非喫煙者よりも高いことも分かった。これらの予後とリスクには、それぞれ別のがん遺伝子が関わる可能性も遺伝子多型解析から示唆された。
以上の結果から、NRF2遺伝子のSNPは、肺がんの予後と非喫煙女性の肺腺がんリスクを予測するための臨床上有用なバイオマーカーと考えられる。今回の成果は、肺がん患者の個別化医療における新しいアプローチとして期待される。
肺がんの死亡率が高い理由の1つは、発見時にすでにがんが進行していることが多いためだが、今回、NRF2遺伝子のSNPと肺がん患者のがん進行度および治療後の生存率との関係を示唆したことで、このSNPが肺がんの予後ならびに非喫煙女性の肺腺がんリスクを予測するための臨床上有用なバイオマーカーになると考えられる。
◎(独)理化学研究所
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