東日本大震災後2年経過を機に、東北大学大学院経済学研究科の吉田浩教授らの研究グループは、被災3県とその他全国の住民を対象に、この2年間の健康状態の変化等をアンケート調査した。その結果、被災3県の住民は健康に大きな変化があり、特に女性と年配(50歳以上)者の健康状態に大きな影響があることが浮き彫りになった。
■被災直後に被災地住民の健康状態が悪化していたことを確認
初めに東日本大震災の発生した3カ月後の心身の健康状態(良い・普通・悪い)を尋ねたところ、被災3県の住民の方が、それ以外の地域の住民に比べて当時健康状態が「悪い」と答えた割合が高く、この傾向は特に「心の健康」面で大きかったことがわかった。
■被災後2年間で被災地内での健康格差が拡大
次に被災後2年間で健康状態の変化(良くなった・変わらない・悪くなった)について尋ねたところ、被災3県の住民では「良くなった」とする人の割合がそれ以外の地域よりも高く、震災後2年を経て健康回復の傾向が観察された。その一方で、「悪くなった」と答えた人の割合も被災3県の住民が高く、健康回復が「出来つつある人」と「出来ていない人」で格差が起きていることもわかった。
■女性、年配者で健康への影響が大きい
性別に回答結果を集計したところ、被災地では震災直後が「悪い」そしてその後2年経過して「悪くなった」と回答した人の割合は男性よりも女性で高くなっている。また、年齢別50歳未満の比較的若い世代は被災後2年の間に「良くなった」と回復した人の割合が高かったのに対して、50歳以上の年配者の世代は「悪くなった」と回答した人の割合が高く、世代間での健康回復の格差も判明した。
■調査の目的:
同研究では、東日本大震災が被災3県(岩手県、宮城県、福島県)の住民の健康状態等に及ぼした影響を統計的に知るため、東日本大震災が発生した平成23年とその後2年を経た現在までの健康や生活の変化をアンケート調査した。
一般に国民の健康状態を知る統計的資料としては、厚生労働省の行う『国民生活基礎調査』がある。この調査では3年おきに「健康票」という調査票によって全国の国民の健康状態が調査されている。しかし、東日本大震災の発生した平成23年は健康票による調査の年に当たっておらず、東日本大震災が国民の健康状態に及ぼした影響を包括的に把握できる統計がなかった。また、震災後に健康への影響を知ろうと試みた調査は多くが企画・実行されたが、被災地の市町村のみを対象としたものであったり、避難所や原子力発電所の事故の影響が及ぶ地域等特定の集団を対象としたものであったりしてきたという問題もあった。
今回、被災直後とその後の心身の健康状態の変化を全国レベルで包括的に調査したデータが得られたことで、被災地で観察される健康への影響が、被災地外の全国の一般的な住民のこの2年間の変化と比較して、固有の現象であるのか等をより詳細に検討できることとなった。
■アンケート調査の概要:
このアンケート調査では、被災地とそれ以外の全国の20歳以上の住民に対して、1.身体の健康、2.心の健康、3.医療機関の受診状況、4.生活環境の変化、5.放射能に対する意識、6.居住地の変化の6つの項目を尋ねている。このうちここでは、身体の健康状態に焦点をあてて集計を行い、結果を報告するものである。
ここでの調査対象は、被災3県(岩手・宮城・福島)とそれ以外の都道府県を対象とし、インターネット調査会社を通じて、全国の登録会員に調査協力を依頼し、850サンプル(うち被災3県480サンプル、その他全国の都道府県370サンプル)より回答を得た。
◎調査資料
http://release.nikkei.co.jp/attach_file/0336607_01.pdf
◎東北大学
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/