株式会社博報堂のソーシャルデザイン専門組織hakuhodo i+dは、認知症患者とその家族を取り巻く課題をデザインの力で解決し、患者が自分らしく人生を楽しむことができる社会を目指す研究プロジェクト「認知症+designラボ」を立ち上げ、活動を開始すると発表した。
hakuhodo i+dは、「社会の課題に、デザインの力を。」を合言葉に、さまざまな社会課題に対してデザインの持つ美と共感の力でアプローチするソーシャルデザイン専門組織。これまでに育児環境を改善するための「新・母子健康手帳」などの実績がある。
「認知症+designラボ」は、hakuhodo i+dが生活者の諸課題の解決に取り組んできた経験や、全国の認知症患者家族に向けて行った調査から得た発見をもとに、九州大学大学院芸術工学府・統合新領域学府清須美研究室(福岡県福岡市)、認知症専門介護施設「あやの里」(熊本県熊本市)と共同で実施。デザインの力を活用したワークショップやツール開発などを行うという。
今後、熊本市での計3回の「認知症+designワークショップ」、学生と共に認知症患者の家庭を訪問し、問題点の発見と課題の解決を目指す九州大学でのワークショップを経て、10月に九州大学にてプロジェクト成果報告会を行う。
hakuhodo i+dでは、昨年10月に認知症患者とその家族の暮らしの現状と抱えている課題についての調査を行い、その結果から、「認知症は患者本人だけでなく、その家族の生活にも影響を与えている。認知症患者のQOL 向上は、家族のQOL 向上にもつながると言える」とまとめている。
調査をもとにしたワークショップの実践とデザインの力で、認知症患者への新しいアプローチが見られることを期待したい。
以下に、調査の主な結果を紹介する。
【調査の概要】
■調査時期:2012 年10月1日~5日
■調査手法:インターネット調査
■調査対象:全国の20 代~100 歳代の認知症患者の家族508 名(うち同居356 名、別居152 名)
・認知症患者の日常生活
認知症患者の外出頻度を目的別に調査したところ、「介護施設などへの通所」は「週に2~3回」と答えた人が28.5%ともっとも多かったが、一方で「2年以上行っていない」と答えた人も27.6%いた。「趣味・娯楽のための外出」では、外出していると答えた中でもっとも多かったのは「週に一度」の16.1%、「2年以上行っていない」という人が30.3%。「散歩」において、散歩している人でもっとも多かったのは「週に一度」の16.7%で、
30.7%は「2年以上行っていない」と回答した。
・家族が介護で負担に感じる行為
もっとも多かったのが「日常の見守り」で、45.9%が負担に感じている。次いで「症状への対応」36.0%、「排便の介助」28.0%、「通院の付き添い」26.2%、「排尿の介助」24.8%だった。
・介護に関わる家族の心境
「心のゆとりがほしい」は、「非常にそう思う」「そう思う」と答えた人が85.2%を占めた。また、「時間のゆとりがほしい」は78.5%、「サポートしてくれる人手が欲しい」は73.1%が、「非常にそう思う」「そう思う」と回答している。
・公的サービスや支援制度の利用状況
通所サービスは54.7%が利用していると回答。訪問サービスは28.9%、短期入所は27.0%、福祉用用具貸与補助は25.6%が利用していると回答した。
・日常の介護をサポートをしてくれる人、今後もっとサポートをしてほしい人
同居家族が「サポートしてくれている」と回答したのは61.4 %、「もっとサポートしてほしい」と回答したのは44.3%だった。ケアマネ、ホームヘルパーなどの介護従事者では「サポートしてくれる」が47.0%、「もっとサポートしてほしい」が45.7%。同居家族以外の親族で「サポートしてくれる」が20.7%、「もっとサポートしてほしい」が25.4%だった。
・介護に関する知識、情報
「介護をしていく上で参考にしている情報」では、「医師や看護師の助言」が73.6%、「ホームヘルパーや介護福祉士、社会福祉士の助言」が65.2%、「家族や親族からの情報」が46.5%だった。「知識・情報が欲しいか」という質問では「非常にそう思う」「ややそう思う」が71.3%と7割を超えた。
◎株式会社博報堂
http://www.hakuhodo.co.jp/
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