理化学研究所と長崎大学の共同研究グループは、3月18日、血管内に投与して脳内だけに遺伝子発現させるウイルスベクターを開発し、アルツハイマー病モデルマウスを使った遺伝子治療に成功したと発表した。
従来、脳疾患における遺伝子治療では、外科的手術により直接脳内に効果が期待される遺伝子を組み込んだウイルスベクターを注入していたが、この治療法は簡便性に欠け、遺伝子の局所注入という制約条件があるため、広範な脳領域への遺伝子導入は困難だった。
そこで、共同研究グループは、循環している血管内に投与して脳内の神経細胞だけに遺伝子を発現させる「血管内投与型の脳内遺伝子発現ベクター」を開発。このウイルスベクターにアルツハイマー病の原因となるアミロイドβぺプチド(Aβ)を分解する酵素「ネプリライシン」の遺伝子を組み込み、アルツハイマー病モデルマウスに対して遺伝子治療を施したところ、脳内のアミロイドや神経毒性が強いとされるAβオリゴマー(Aβが複数結合したもの)の量を減少させ、障害を受けていた学習・記憶能力を野生型マウスのレベルまで回復させることに成功した。
今回開発したウイルスベクターは、中枢神経系疾患の遺伝子治療の概念を変える革新的な技術であり、若年発症型のものを含めてすべてのアルツハイマー病患者の根本的な予防や治療法となる潜在力があると考えられる。さらに、ウイルスベクターを迅速かつ大量に生産する技術の開発や、安全性の問題などが解決されれば、臨床応用も期待できるという。
◎理化学研究所
http://www.riken.go.jp/
◎長崎大学
http://www.nagasaki-u.ac.jp/
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