東京大学大学院薬学系研究科の一條秀憲教授らは、生活習慣病予防の基本である「血圧コントロール」に関する新たなメカニズムを発見したことを報告した。
生体にとって、脱水、イオンバランスの異常、水の貯留などで起こる体内の浸透圧変化は非常に大きなストレスとなるため、その状態をもとに戻すシステムの存在が重要だ。しかし、これまで、この浸透圧変化が細胞レベルでどのように感知され、情報が伝達されているのか、不明な部分が残されていた。
今回の研究では、体内の浸透圧(水とイオンのバランス)が乱れた際に必要不可欠な腎臓を介した血圧のコントロールシステムにおいて、浸透圧変化に対して敏感に応答する「ASK3」というタンパク質を新たに発見。このタンパク質が重要な働きをしていることを初めて明らかにした。
ASK3は腎臓に多く発現するタンパク質だ。これを失ったマウスでは、年を取るにつれて普通のマウスよりも血圧が高くなる傾向が示され、また、普通のマウスでは血圧に変化が見られない程度の高食塩食で高血圧になった。こうした結果から、高食塩食で体内のイオンバランスが崩れた場合でも、腎臓でASK3が血圧が上がらないようにコントロールしていることが示唆された。
現在、利尿薬など腎臓に作用して体内水分量を調節する薬が高血圧症の第一選択薬の一つとして使用されているように、体内の水とイオンのバランスを適切に保つことは治療においても重要なポイントになっている。本研究成果により、浸透圧変化に対する新たな応答システムが明らかになり、それが体内の水とイオンバランスの調整を介して血圧制御などに働いている可能性が示された。この新たなシステムをターゲットとすることで、高血圧やうっ血、浮腫など体内水分量の異常を原因とするヒトの疾患に対する治療薬開発につながることが期待される。
高血圧が長い期間続けば、脳や心臓などの血管を傷つけ、脳卒中や心筋梗塞、腎不全などを起こしやすくなると言われている。そのため、血圧をコントロールすることは、こうした重大な病気への予防にもつながる。
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