東京大学大学院農学生命科学研究科の研究グループは、認知症の発症との関連が着目されているタンパク質であるプログラニュリンの炎症反応における役割を調べた。プログラニュリンは、近年、人ではその遺伝子変異が前頭側頭葉変性症等の神経変性疾患の原因となることが明らかとなり、認知症の発症との関連が着目されているタンパク質。
今回、マウスを用いた実験的脳傷害モデルにより、プログラニュリンは脳傷害部位に集積する活性化ミクログリア(炎症反応等を誘起して脳内における病変の修復を担う細胞)に発現し、ミクログリア自身の過剰な活性化を抑制して炎症反応を軽減することが明らかになった。プログラニュリンの持つこのような神経保護作用が、神経変性の抑制にも関連している可能性が考えられる。
プログラニュリンは細胞の増殖や腫瘍の形成、創傷の治癒などに関与することが知られているタンパク質。研究グループは、プログラニュリンの脳における発現が性ホルモンであるエストロゲンにより促進され、新生子の脳の性分化や成熟動物における神経新生に関与することを見出してきたが、近年、プログラニュリン遺伝子の変異によるハプロ不全が人の認知症の一種である前頭側頭葉変性症の一因であることが報告され、またアルツハイマー病や筋萎縮性側索硬化症等の神経変性疾患の発症リスクを高めることも示唆されている。
今回の研究結果より、脳に傷害が起こったときに傷害部位に集まる活性化ミクログリアでプログラニュリンが産生され、このプログラニュリンがミクログリア自身の過剰な活性化を抑制することにより、酸化ストレスや血管のリモデリングなどの炎症反応を制御していることが示唆された。プログラニュリンはこのような炎症抑制作用を通して神経保護作用を発揮していることが明らかとなり、またプログラニュリンのもつこのような神経保護作用が神経変性疾患を抑制する一つの機序となっていることが考えられた。
◎東京大学
■関連記事
・ネコもアルツハイマー病になる?――東大が研究発表
・少子高齢社会に向け、50歳以上の中高年層の生活実態を調査——東大