東京都健康長寿医療センターは、11月17日、板橋区医師会との共催で、板橋区立文化会館大ホールにて「中高年のための健康講座 地域で支える認知症」を開催した。
講座は3つの講演からなり、一番手を務めたのは東京都健康長寿医療センター研究所研究部長・粟田主一氏で、テーマは「認知症疾患医療センターの役割について」。東京都の認知症疾患医療センターの役割を例にあげながら、認知症を支える地域包括システムの展望について語った。
2008年にスタートした認知症疾患医療センター事業は、認知症の人が住み慣れた地域で暮らし続けるための支援のひとつで、都道府県や政令指定都市が指定する病院に設置する。東京都では2012年4月に事業が始まり、現在10か所の医療機関が指定を受けており(2012年度中に12か所)、東京都健康長寿医療センターはそのひとつ。
認知症疾患医療センターは、認知症の鑑別診断、周辺症状や身体合併症の急性期医療などを行なう専門医療機関であると同時に、地域連携推進や人材育成の役割も担い、それぞれの機能が相互に関わりながら認知症の人とその家族を支援する。そうした特徴をよく現しているのが、「専門医療相談室」。受診予約と外来診察をつなぐほか、さまざまな段階で地域と連携を取りながら認知症の人と家族をサポートしている。
「とくに難しい事例では、専門医療相談室が地域包括センターと連携しながら関わることになります」と粟田氏。そのような事例として以下のようなケースを示した。
【事例】80歳女性・ひとり暮らし。1年くらい前から財布などを紛失しては「犯人は隣に住んでいる人」などと言い、近隣とのトラブルが絶えない。マンション管理会社から連絡を受けた地域包括センター職員が女性の家を訪問すると、身体的には自立していても健忘が著しく、認知症が疑われる。医療機関の受診をすすめるも拒否されてしまい、専門医療相談室に相談が持ち込まれる。
「認知症の人は、脳の病気の症状だけではなく、多くの場合周辺症状や身体合併症もあり、社会的な困難を抱えています。とりわけひとり暮らしや生活に困窮している人、家族がいても介護ができなくなったケースでの社会的困難を解決するには、多職種による地域の連携が欠かせません。東京都の認知症疾患医療センターでもっとも重要な役割が、その連携を推進する機関としての機能です」
■増加する認知症の人をどう支えるか。東京都の地域包括ケアシステム
講演では、認知症の人を支えるために地域包括システムがどのように構想され、展開されているかの解説がなされた。ついで、東京都の地域包括システムの施策とその中における認知症疾患医療センターの役割について解説し、二次保健医療圏ごとに設置される認知症疾患医療センターが地域をサポートするあり方について言及した。
2012年現在、認知症の患者は全国で約300万人。2045年には600万人と推計されている。人口が日本でもっとも多い東京都では、認知症患者の人数も多いと考えられ、また、ひとり暮らしの高齢者の多さは群を抜いている。
「2010年の東京都の65歳以上の単独世帯は約60万で、2025年までに1.4倍になると考えられており、支援を必要とする認知症患者は相当な数になると見込まれます。東京都において認知症患者を地域で支えるための仕組みづくりは、急務です」
地域連携を実現するための情報共有の仕組みづくり、地域包括ケアシステムを利用した認知症の早期診断システム、すべての職種が認知症の総合アセスメントが可能になるための人材育成の取り組みなど、これからの認知症対策で重要となるキーワードが頻出し、地域包括システムへの理解が深まる講演となった。
――認知症講座レポ(2)へ続く