公益社団法人日本精神科病院協会(日精協)は、7月26日、先に厚生労働省認知症施策検討プロジェクトチームが発表した「今後の認知症施策の方向性について」に対し、反論を発表した。
同施策の取りまとめの中で、「これまでの“自宅→グループホーム→施設あるいは一般病院・精神科病院”というような不適切なケアの流れ」という部分が、これが日本の精神医療のこれまで果たしてきた役割を、根底から否定しているような表現と受け取れることや、地域医療や介護施設等を重視し、精神科病院の専門性を重要視せず、いわば「蚊帳の外」に置かれているため、長年、認知症治療に尽力してきた精神科医療の立場からは、到底受け入れられない内容、としている。
以下、反論内容を抜粋して紹介する。
■「今後の認知症施策の方向性について」は精神疾患である認知症に対し、ケア中心の施策であり、医療、特に精神科医療への関与を極力抑えるような文言が目立ち、到底受け入れられる内容ではない。
■取りまとめの中で、これまでの「自宅→グループホーム→施設あるいは一般病院・精神科病院」というような不適切な「ケアの流れ」と表現しているが、我々は常に「病院→地域→自宅」という流れを推進した。しかし、地域の受け皿や自宅での介護支援の不足が大きな障害となり困難を極めていた。これは国の認知症施策の貧困によるものである。
■現行の認知症疾患医療センター(地域型・基幹型)に加え、新しい類型の身近型を作ろうとしている。より身近なセンターを目指し300ヶ所設置する予定である。多くは診療所が中心になると考えられるが、なるべく精神科病院に入院させない危機回避支援機能なども負わされることになる。偶然にせよ激しい行動・心理症状(BPSD)が発現した時は精神科医療機関で対応しなさいというのは、本人、家族に対してもあまりに無責任である。認知症は早期より精神科医療が関わらなければならない疾患であることを忘れてはならない。
■認知症専門医以外の医師が不適切な薬物使用をしないように「薬物治療に関するガイドライン」を策定することは重要である。「認知症初期集中支援チーム」「認知症ライフサポートモデル」など医療と介護・福祉が協働することは大切であるが、くれぐれも本人と家族の意思を尊重した施策を提供してもらいたい。
■地域の認知症ケアの拠点としてグループホームの活用を推進し、より重度化した者や看取りの対応まで行わせようとしているが、運営に関する監査体制は不十分であり、法的に人権に配慮しているとは言えない。認知症患者の人権に対して格別の配慮を法的に行っているのは精神科医療だけである。また、我々は若年性認知症研究を行い提言をしている。しかし、国はそのまま今日まで対策を考えてこなかったのである。
■精神科医療では、早期から終末期までの長い経過の治療を家族の支援とともに行ってきた。精神科病院では入院に際しては早期退院を目指し、入院クリニカルパスを作成、退院後にはデイ・ケアのクリニカルパスを作成し運用している。さらに地域連携パス「オレンジ手帳」を作り、かかりつけ医、ケアマネジャー、地域包括支援センター等と情報を共有している。精神科医療の関与がなくして認知症施策は成り立たないのである。医療計画の策定等、実効ある施策でなければならない。
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