慶應義塾大学医学部神経内科の研究グループ(鈴木則宏教授、八木拓也医学研究科博士課程、伊東大介講師)は、同生理学教室(岡野栄之教授)と共同で、アルツハイマー病患者の皮膚細胞から、人工多能性幹細胞(ips細胞)を作成することに成功。このips細胞から、神経細胞を誘導し、アルツハイマー病由来の細胞では「ベーターアミロイド42」と呼ばれる毒性の高いタンパク質が通常の2倍つくられていることを確認した。
アルツハイマー病は、認知症のなかでも約半分を占める、頻度の高い神経難病だ。しかし現状では対症療法が中心で根本的な治療は開発されていないため、完治は望めない。
ただし、これまでの研究から、アルツハイマー病の患者の脳ではベーターアミロイドが多量に蓄積されていることがわかってきている。また、培養細胞やマウスによる実験から、アルツハイマー病では毒性の高いベーターアミロイド42が過剰につくられている可能性が示唆され、ベーターアミロイドがアルツハイマー病の原因であると考えられてきている。
今回の研究は、この仮設を患者由来の生きた神経細胞で、世界で初めて証明したもの。
さらに、同研究では、アルツハイマー病ips細胞由来の神経細胞に対して、アルツハイマー病治療候補薬を使い、毒性の高いベーターアミロイド42がつくられるのを抑えることができることも示唆。アルツハイマー病の根本的治療の開発が遅れていた背景には、患者由来の神経細胞を用いた薬剤の開発、薬効評価ができなかったことがあり、今回の研究成果は、新しい認知症治療薬の開発につながるものと期待される。
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