6月5日に行われた全国在宅医療推進協議会主催の市民講座で講演を行った井尾和雄氏(立川在宅ケアクリニック院長)は、自院で行っている在宅医療について説明した。
立川在宅ケアクリニックの開院は、2000年2月。現在は、医師4人(常勤2人、非常勤2人)、看護師2人、事務5人、ボランティア(アロマ)1人という体制で、それぞれ30箇所以上の訪問看護ステーション、訪問介護事業所と連携しながら、立川市を中心に周辺14市町を訪問している。
「当院の在宅医療=在宅ホスピス」と話す井尾氏。同クリニックでは、末期がんの患者のほか、寝たきりの高齢者、難病患者(最年少は4歳)を対象に在宅ホスピスを提供し、2010年に看取った患者数は187人(在宅160人、特養27人)。開設以来、1,630人の看取りを行ってきた。
「僕は看取りません。看取るのはご家族」「家族が自宅で看取るための応援医療」と考える井尾氏は、「中途半端な気持ちの患者さんは受けません。看取るという覚悟を家族がされることが大事」と話す。
そして1,600人以上もの看取りに携わってきた経験から、在宅ホスピスの成功のポイントを次のように紹介する。
・「点滴は原則行わない」
中心静脈栄養は減らし、自然な苦しまない呼吸状態のためには「余分な水はいらない、最期まで口から」が看取りの極意という。
「点滴は何かしてもらっているという家族の安心感だけで、患者さんにとっては拷問」(井尾氏)
・「痛みは我慢しない」
痛みを我慢することは心身ともに消耗するだけで、何の意味もない。痛みが消える量が適切な投与量であって、中途半端なモルヒネの使い方はしないとのこと。
・「呼吸困難の対応」
肺がん、肺転移、呼吸器疾患の呼吸困難の、自宅でも24時間酸素が使用でき、モルヒネや座薬の使用で呼吸苦を軽減することができる。
また、井尾氏は、在宅で看取った患者のうち、診療日数が1週間未満が13%、1週間〜1ヶ月未満が35%もいるという状況について、病院に対して「紹介がまだまだ遅い」と指摘する。
「医者は亡くなっていく過程について教育を受けたことがありません。亡くなっていく方にも助ける医療をしてしまう。でも、余命が短いと判断した患者はありのままを伝えて見放したほうがよい」と、患者が残された時間を有意義に使うために早めに紹介してほしいと主張した。
このほか、講演後の質疑応答では、看取りに必要なことについて問われ、「構える必要はない。そばにいてあげること。普通に戻すためには何が必要か考えること。むしろ、残された人のメンタルケアが大事です。スピリチュアルといったことが注目されているが、日本はまだまだ未熟な国。自然体でいること、人は死ぬんだということを日頃から考えておくことが必要」と答えた。
全国在宅医療推進協議会理事長・神津仁氏(神津内科クリニック 院長)
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