4月8日、東京のアップルストア銀座で、シンコム・システムズ・ジャパン株式会社によるヘルスケアセミナーが開催された。
この日は、本来ならアメリカでの訪問看護プロバイダーの現状と、日本での可能性を探るテーマで開催されるはずだったが、東日本大震災を受け、災害時のヘルスケア・クラウドの利用可能性などについてディスカッションされることになった。
なかでも登壇者の1人である菅原由美氏(ボランティアナースの会キャンナス代表・看護師・ケアマネジャー)が被災地でのボランティア活動から戻ってきたばかりで、写真を交えての生々しい報告に注目が集まった。
現地では、同会の会員ナースが手弁当で駆けつけ、24時間休みなく、交代で被災者のケアに当たっている。特に被害の大きかった宮城県石巻市、気仙沼市、南三陸町などの避難所で現在もボランティアを行っており、避難所の生活の様子を次のように語った。
「着の身着のままで逃れてきた皆さんですから、被災直後は、たとえば下着でも男女の別もなく『なんでも着られればいい』状態でしたが、今は細かい要求が出てくる段階に来ています。正直、生活物資はもう十分すぎるほどで、衣類などは送ってもらっても置いておける場所もないのが現状。被災地は、『命を助ける』ところから、次の段階である『生活を建て直す』段階に入っています」。
また、看護師のボランティアと言っても、基本は医師の指示の元に活動するケースが多いが、「応援ドクターたちはホテルに寝泊りし、9時にやってきて夕方4時にはクローズするようなクリニックもある。でも我々ナースは、24時間交代でつきっきり」と、現実の厳しさを語る。
さらに、避難所でのケアの難しさについて、「阪神淡路大震災のときは、外科的な被災者が多かったが、今回は慢性疾患を抱える高齢者が多いのが特徴。しかし持病の薬もお薬手帳もすべて流されてしまっていて、何を飲んでいたかを特定するのも難しい状況」と、慢性疾患ケアの難しさを訴えた。
「国保連には患者さんのレセプトデータがあり、それを見れば投薬状況もわかるのに、まったく機能していないのが残念」と、日本の医療データベースシステムの遅れを嘆いた。
菅原氏が最初に避難所に足を踏み入れたとき、掃除がなされておらず、あまりのホコリっぽさに愕然とし、「ナースとしての最初の仕事は環境整備だ」と感じたという。そしてすぐに自前で強力な吸引力のあるダイソン社のクリーナーを10台手配したが、「こんなものでは足りない」と、シンコム社に訴えたところ、ダイソン社英国本社にコンタクトをとり即決で170台のクリーナーを被災地に届けることが決まったという。外資系企業のこうした反応の速さを菅原氏は高く評価した。
菅原由美氏らの活動の様子など、現地からの報告は、同会ブログ「いけいけ!!ボランティアナース」で読むことができる。