杖や手すりといった福祉用具は、高齢者の日々の生活を直接支える大切なツールです。その専門家は、安全・安心を維持するため日々、知恵を絞り、工夫を凝らし続けています。このシリーズでは、同じ介護業界で働くプロ(ケアマネジャー)が、福祉用具の専門家の、ちょっとすごい取り組みや工夫を取材・紹介します!
- 取材した介護のプロ(ケアマネジャー)
- 菊池三喜子さん(加藤クリニックケアプランセンター、主任ケアマネジャー)
- スゴ技を発揮した専門家(福祉用具専門相談員)
- 疋田なつきさん(ダスキン ヘルスレント天王寺ステーション)
がん末期患者の「墓じまい」を実現させた、適切で丁寧な用具の提案
「墓じまい」を生きる希望とした、がん末期の男性
菊池:ダスキンヘルスレントの担当者さんには、適切な提案と迅速な対応で、いつも助けていただいています。最近では、自宅で最期を迎えられた、男性のがん患者さんの支援をしていただきました。
疋田:今年、京都で「墓じまい」をなさった方ですね。
菊池:そう。2022年3月に腸にステージ4のがんが見つかった方でした。がんの進行状態から手術ができず、抗がん剤治療も実施しませんでした。それでも、とにかく「自分の手で、墓じまいするのだ」という目標に向けて、必死にがんばられていた方でした。末期がんを抱えながら毎朝、奥様と一緒に、近くの住吉大社までウオーキングスティックを使った散歩をされていたのも、その思いを実現したかったからでしょう。
目標、という物言いは、ちょっと軽すぎるかもしれません。その方にとっては、その思いを実現することこそが、生きる希望だったのだと思います。
疋田:実際、医師の見立てでは今年8月まで持つかどうか危ぶまれる状態でしたが、その8月に「墓じまい」をなさいましたよね。
心が折れそうになった時、支えとなった車いすの導入
菊池:そうでした。ただ、いくら思いが強くても、がん細胞が配慮してくれるわけはありません。6月ごろには、腹水がたまりはじめていましたし、8月ごろには、ご自身の足で歩くのもつらい状況に陥っていました。そして8月上旬、発熱で入院されたとき、ついに心の芯が折れてしまった。「もういい、しんどいから、京都は無理」と弱音をもらしはじめたのです。
その言葉を聞いた時は迷いました。でも、ここまでがんばられてきたのだから、一時の弱音に流されてしまえば、大きな悔いを残して旅立つことになりかねません。医師も「8月中ならば、なんとか京都に出向けるでしょう」と判断していたので、ここはなんとか、がんばり続けてもらおうと心を決めました。
そこで奥様といっしょに「歩けなくても、車いすがあるじゃない。試してみてからでもいいのでは」と提案したのです。
そして、疋田さんに連絡しました。「腹水がたまり、痛みも強い。だから前のめりにもならず、座っても背中やおしり、おなかを圧迫せず、足が痛くない車いすを用意して」という、ちょっとハードル高めの注文を付けて(笑)
疋田:腹水への対応については、「座王」という用具で十分可能と思いました。ただ、この用具は少し重くて大きいので、車の移動で使うには、難しいかと懸念しました。そこで、もう少しコンパクトで軽い用具(ウルトラシリーズ)も併せて提案させていただきました。
車いす自走式 座王X
そして、両方の車いすを使っていただき、より良いと感じられた商品を選んでもらったのです。
菊池:試乗の時は、お医者さんや訪看さん、私も一緒にお伺いしました。そしたら…。
疋田:満場一致で「座王」を選んでいただきました(笑)
菊池:そうそう。試乗された旦那様は「ああ、楽やわ~!」と即決。医師や看護師さん、私も座ってみて、その良さを確かめましたよ、「これ、ええやん」と。車に積むのは何とでもなるということで、「座王」に決定。それで8月最後の日曜日、京都にいって無事、「墓じまい」を済ませることができました。疋田さんの適切な提案があったからこそ、旦那様の生きる希望がよみがえり、実現できたのだと思います。
この車いす、京都に行く際に使った後も使っていただけていましたよね。
疋田:9月に入ったら、家での歩行も困難になったので、家の中で車いすに乗られていました。そのほか、散歩や通院にも活用していただいたとお聞きしています。
菊池:最後まで大活躍でした。それだけ、疋田さんが選び、調整してくれた車いすの乗り心地が快適だったのでしょう。
奥様からの最大の賛辞「すべての思い出を『よかった』と締めくくってくれた」
疋田:亡くなられたのは、9月下旬のことでしたね…。用具を引き上げた際、奥様から繰り返し、「大変よくしていただいて、助かりました。ありがとう、ありがとう」と仰っていただいたことを、よく覚えています。
菊池:奥様とは49日の法要の前に、話をさせていただきました。その時、奥様は「末期がんになった主人と私で、このあと、どうやって生きていったらいいのか、途方に暮れていた時、菊池さんをはじめお医者様や看護師さん、福祉用具相談員さんが関わってくれて、本当に助かった」と仰られました。そして、すべての思い出を「よかった」と締めくくってくれたのです。私や疋田さんや、同じチームの医師、看護師らにとって、最大の賛辞でしょう。
さらに言えば、旦那様と奥様にとって時間の余裕も心のゆとりもない中、疋田さんが適切な用具を提案し、調整し続けたからこその賛辞だったと思います。事実、車いすについて「いいタイミングで、ぴったりの用具を用意していただいたから、京都にも行けたし、散歩も続けられた。本当にありがたかった」と仰っていましたから。
ターミナル期の方と向き合うため、どうしても必要なことは
疋田:改めて考えてみると、菊池さんが担当されている方には、本当にターミナル期の方や医療サービスが不可欠な方が多いですね。
菊池:その分、ハードル高めの「無茶ぶり」も多いかと(笑)
疋田:いえいえ(笑)。いつも勉強させていただいています。
菊池:少し、言い訳をさせてもらうと、介護が必要な方のニーズへの対応することを優先すると、どうしても、福祉用具専門相談員さんには難しい注文をつけざるをえないのです。だからこそ依頼に真剣に向き合い、一緒に考えてくれる福祉用具専門相談員さんがいると、とても助かります。疋田さんやダスキンヘルスレントの皆さんは間違いなくそういう方々です。
特にダスキンヘルスレントの皆さんは、多くの場合、私の依頼に対応しうる用具を、複数、提案してくれます。一つ提案するだけでも大変だと思うのに、選択肢まで示してくれるのは、本当にありがたい。ターミナル期の方とそのご家族にとっては、自分で用具を選ぶ瞬間はいい思い出にもなります。
繰り返しになりますが、ターミナル期の方の状態は、どんどん変わっていきます。そんな方に用具の提案をお願いするというのは、「福祉用具のプロとして、最期を迎えようとする方の変化に寄り添い、その過程を一緒に支えてくれますか。最後になるかもしれない『生きる希望』を実現するため、粘り強く支え続けてくれますか」とお願いしていることと同義です。
だから、「何とかやります」という自信のない返答をされると、依頼することがためらわれます。逆に、プロ意識が高い疋田さんやダスキンヘルスレントの皆様であれば、安心してお願いできる。
疋田:ありがとうございます。でも、私たちが対応しきれているのは、菊池さんからの依頼が、わかりやすく丁寧だからです。サービスを使われる方の状態と目的を丁寧に、それも相談という形で依頼してきてくれるから、対応しやすいのです。
菊池:ダスキンヘルスレントの福祉用具専門相談員さんは、共に現場をささえる大切なメンバーですからね。必要な情報をできる限り共有するのは当然のことです。
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