皆様の質問に平井先生が回答!
今回は、介護食について読者の皆様から寄せられた質問・疑問に、管理栄養士の平井千里先生が答える「介護食の基礎知識・特別編」をお送りします。
Q1:おかゆにとろみをつける話を聞きますが、効果としておかゆにとろみをつけることは有効なのでしょうか。おかゆ自体にとろみがあると思います。おかゆの粘度にもよるでしょうがいかがでしょうか。
■おかゆにとろみは必要ないが…
おかゆをそのまま提供するのであれば、私もご質問者様と同意見です。炊き上がりから提供までの段階でおかゆの粘り気を調整すれば、とろみ剤を使う必要はないと思います。
おかゆにとろみを使う場面として考えられるのは、ブレンダー(ミキサー)で刻んで提供する時ですね。この調理器を使う場合、重湯をかなり残した状態でブレンダーにかけるのが普通ですが、時には、サラサラなおかゆができあがることも。そのため、最後にとろみ剤を追加し、粘度を調整することがあるのです。
■時間がたつと硬くなるおかゆ
そのほかに注意すべき点があるとすれば、おかゆは時間が経つと硬くなる性質がある点でしょう。米が重湯を吸うために起こる現象ですが、盛り付けから実際に食べるまでに少しタイムラグがある場合、ちょうどよい硬さで盛り付けても、食べる時には硬くなり過ぎることもあります。
■とろみ剤より、ゼリーの素がよい場合も
ところで、ゆっくり食事を進めているうちに粘り気があったおかゆがサラサラになってしまうことがありませんか?これはおかゆの中の「でんぷん」がスプーンに残った唾液によって消化されてしまうために起こる現象です。
あまりにサラサラで危ないと思われるようなら、おかゆを小皿に分けて唾液に触れないようにしてください。これでほぼ解消されるはずです。あるいは、温かいままのおかゆをゼリー化できる「固形化補助食品」を用いて、ゼリー状にして提供するのも一案です。
私の個人的な意見としては、コストが許すのであれば、とろみ剤で硬さを調整するよりも、市販の「かゆゼリー」の素を使うことや、固形化補助食品でゼリー化することをお勧めします。特にブレンダーで刻んだおかゆは、どうしても「餅」のような粘性が出てしまいますが、ゼリー化すれば粘性が減ります。特に自宅でブレンダーにかけたおかゆを提供したい場合などには、市販の「かゆゼリー」の素を使うのがベストです。ブレンダーについてはQ4のご質問も参考になさってください。
Q2:牛乳専用のとろみ剤がありますが、普通のとろみ剤でも時間を置けば牛乳はとろみがつくのでしょうか。
■牛乳でもみそ汁でも、とろみはつく
つきます。最近のとろみ剤は品質が向上しています。過去の記事でご紹介した「ひと手間」を惜しまなければ、きれいなとろみをつけることができます。みそ汁やジュースなどでも同様です。
Q3:きざみ食を提供していますが、焼き麩(ふ)や豆腐などは刻まなくても、そのまま口に入れれば崩れて誤嚥のリスクはないと考えてもいいものでしょうか。
■きざみ食提供だけで誤嚥リスクの判断は難しい
きざみ食が適しているのは「通常の食事では心もとないが、まだ食事をする能力は、そこそこしっかり残っている状態」の方。言い換えるなら、きざみ食を食べている人の「食事する能力」は結構、幅広いのです。
ですので、「きざみ食が食べられる=焼き麩や豆腐なら誤嚥リスクはない」とは、言い切れません。不安を感じる場合は、嚥下専門の医師や言語聴覚士、管理栄養士などにご相談下さい。
■食べる前にスプーンでつぶし、提供する方法も
ところで、介護士さんやナースから「全部、刻んでしまったら何を食べているのか分からない。そのまま食べられない人には、麩や豆腐は食べる時につぶして食べてもらうから、そのままの形で出してほしい」という提案をもらうこともあります。
確かに、焼き麩や豆腐、あるいはバナナはスプーンでつぶせます。そして、食べる時につぶす方が、召し上がる方の状態に合わせやすいというメリットもあります。実際、普通はブレンダー食(※後述)しか食べられないのに豆腐だけはそのままの形で食べたいという方もいたりするのです。
自宅で介護する場合でも、食べる人の目の前でつぶす方法がもっとも喜ばれるように思います。ぜひ一度、お試しください。
余談ですが、きざみ食は「まとまりやすさ(凝集性)」にも注意が必要です。焼き麩や豆腐は口の中でばらけやすいので、提供する際には調理方法を工夫しましょう。
Q4:ブレンダー食とは、どのようなもので、どのような方に適しているのでしょうか。
ブレンダー食は、やわらかく調理した後、ブレンダーやミキサーなどで細かく砕き、硬さや粘度をとろみ剤で一定に調整して提供する食事のこと。「つぶし食」「ミキサー食」「ペースト食」とも呼ばれます。
■「かみにくい人」だけでなく「嚥下が悪い人」にも
とろみ剤で硬さや粘度を調整するため、嚥下状態がよくない方向け・・・と思われている節がありますが、どちらかというと「かみにくい方」に適しています。
ただ、嚥下状態がよくない方にはまったく適さないかというと、そうではありません。嚥下状態がよくなくても、硬さや粘度を調整することで飲み込める方もいらっしゃるので、嚥下に問題がある場合でも、ブレンダー食が適しているケースもあります。
いずれの場合も、どのように提供すればいいのかな?と迷った場合には、嚥下専門の医師や言語聴覚士、管理栄養士などにご相談下さい。対象様にもっとも適した案を提示してくれるはずです。
- 平井 千里(ひらい・ちさと)
女子栄養大学大学院(博士課程)修了。名古屋女子大学 助手、一宮女子短期大学 専任講師を経て大学院へ進学。「メタボリックシンドロームと遺伝子多型」について研究。博士課程終了後、介護療養型病院を経て、現職では病院栄養士業務全般と糖尿病患者の栄養相談を行うかたわら、メタボリックシンドロームの対処方法を発信。総合情報サイトAll Aboutで「管理栄養士 /実践栄養」ガイドも務める。