認知症の方のケアの中には、「ユマニチュード」という、技法があります。
「あなたは大切な人です」と感情記憶に働きかけるケアで、「見る」「話す」「触れる」「立つ」という行為から、150もの技術があり、取り入れることで認知症の患者さんの不安や恐怖を和らげることができます。
以前、介護施設で相談員をしていた時、「認知症が進行し、施設で生活させてほしい。」というご家族の思いから、入所された女性の方がいらっしゃいました。
入所されて三カ月ほど、ほぼ毎日「家に帰りたい」と訴えられ、そのような状況にご家族も、「なんでうちのばあちゃんだけ」と行き場のない気持ちを抱えていました。
職員に対しても、少し不信感を抱かれていたかもしれません。
その方はお元気な頃、専業主婦として、家族を支えられていました。認知症になっても、誰かをお世話する。という気持ちを持たれ、他利用者の方のお洋服が乱れていると直されようとする行為もお見受けしました。
その時、一緒だったケアマネジャーの発案で、「体操中や作業中に、他利用者の方のお世話をできる範囲でしていただこう。」という内容が組み込まれました。
それは本当に簡単なもので、移動の際に、「○○さんのお隣で転ばないようにみていてください」とお願いしたり、体操の時などに「お手本をみせてください」と、その程度のことでした。
時間の関係で寄り添える状況でない時もありましたが、少しずつの積み重ねで、こわばっていた表情も和らぎ、いきいきとした表情をみせてくださるご状態に変わっていきました。
その様子を、ご家族の方が来訪される度にお伝えすると、ご家族も緊張の糸がほぐれたのか、施設の職員に笑顔をみせてくださいました。
そして、月に一度ご自宅への外泊も行われるようになり、改めてご家族の時間をもっていただくことができました。
必ずしも直接的な支援でなくても、施設がご利用者とご家族が穏やかに生活できるサポート役として支援できたのかな。と感じます。
これが、ユマニチュードやその他正しいケアに繋がりがあったかは、わかりません。しかし、明確に通じるものがあったのだとすれば、
「あなたは大切な人です」とご家族が思い、思われていたことかもしれません。