
前回、臨床美術で作品を制作してもらうと、認知症の高齢者は『ぼやき』が多い。
それは、「うまく描けない」ことに対するエクスキューズかもしれないという話をしました。
ところが、先日、感動の出来事が。私が陰で『ぼやきの女王』と呼んでいるIさんは、いつも「できない」「わかんない」とぼやきっぱなし。途中で制作を投げ出しそうになったこともあるのですが、その日は一言もぼやかない。それどころが、私がヒントを与えなくても、どんどん手が動いているのです。そもそもいつもと表情が違いました。ぼやくときに必ず見られるしかめっ面が一切なく、終始きりっとした顔で集中力を発揮していました。継続して参加したことで「私にもできる」という自信がついたのかもしれません。
臨床美術は、右脳を活性化させることで前頭葉の機能も高める効果があります。私自身明らかに右脳が活性化していることを実感しています。でも、健康な成人や高齢者に臨床美術を指導しても、本当に効果が出ているのかどうかは、傍目からはまったくわかりません。「これは臨床美術効果ではないか?」と初めて感じたのがIさんの例でした。
先日、母校の中学校の特別支援学級の生徒たちに臨床美術の指導をしました。驚いたのは彼らの集中力と発想力。2時間半近い長丁場だったにも関わらず、彼らの集中力は切れることがありませんでした。参加した先生方も、彼らの別の一面に驚きを隠せない様子でした。生徒たちとは初対面なので、いつもはどういう子たちなのか知りませんでしたが、一緒に参加した校長先生によれば「いつもは人の粗さがしばかりしている子が、友達の作品をほめていた」「自閉症の子が、途中から表情が変わった」と。ほかにも、自分が描くりんごを選ぶことさえ困難で、一言もしゃべらなかった子が一心不乱に集中し、最後には「楽しかった!」と笑顔を見せる子もいました。
「できた!」という達成感は人を変えます。絵でもなんでもいい。おもしろくて思わず集中してしまう相性のいい何かと巡り合うことの大切さに、改めて気づかされました。




