高齢者会館では健康な高齢者に、デイサービスでは認知症の高齢者に対して、臨床美術の指導をしていますが、「絵を描く」という行為を通すと、彼らの違いがよくわかります。
健康な高齢者の場合は、「難しそう」といった発言はしても「できない」とか「全然だめ」などネガティブ発言は、まずしません。しかし、「目がよく見えないから描けない」とか「そこをちゃんと教えてくれればできたはず」などと言うことで、うまく描けないことの言い訳(ではないこともあると思いますが)にしているような人もいます。人は『うまく描かなればいけない』という呪縛から自由になりにくいのかもしれません。だからこそなのか、私の説明をしっかり理解して制作に取り組みます。
一方、認知症の高齢者の方の場合は、「こんなの描けない」「なにがなんだかわからない」など、もちろん人によるけれど健康な高齢者より『ぼやき』が多いように感じています。それは、自分の能力の衰えを自覚していて、本当はもっとうまく描けるはずなのにできない自分に不満だから、自分を正当化するためのエクスキューズなのかもしれません。
どちらにも共通しているのは、あ~でもない、こ~でもないと工夫しながら集中して取り組み、最終的には作品を仕上げることです。
健康な高齢者は理解力が高いため、参考作品に近いオリジナル作品を仕上げますが、認知症の高齢者の作品は、とにかくユニーク。彼らにしてみれば、「うまく描きたいけど描けなかった」なのかもしれませんが、自分のこだわりがそのまま作品に出て『その人ワールド』を創り上げます。
「うまく描かなければならない」という呪縛から、知らず知らずに自由になっているのかもしれません。