利用者の自立を支援するため、「自分でできることは、やってもらう」というのが、介護職が利用者に向き合うときに心がけなければならない大切な心得です。
しかし、これがなかなかうまくいかないのが現実。特に訪問介護の現場では難しい。
「ヘルパーさんは、なんでもやってくれる」と思っている利用者は多く、例えば掃除のサービスなら、拭き掃除は床だけのはずが、障子の桟まで拭くように要求するなどエスカレートしていくケースも。
一方、ヘルパーも自分でやったほうが効率がいいし、サービス時間も限られているので精神的にも物理的にも余裕がありません。よって、「利用者はやってもらう側」、「ヘルパーはやってあげる側」という訪問介護現場の構図ができあがってしまいます。これでは自立支援はどこへやらですよね。
この構図に陥らないことが、訪問介護の現場では重要だと思います。
そのためにはどうすればいいか、豊かな現場経験をもつ介護福祉士に聞いたところ、サービスの契約の段階で、利用者ができること、できないことを明確にすることだと言います。
最初の時点で「○○さんは、○○をやってくださいね。ヘルパーは○○をやります」と双方がやるべきことをこと細かく決めて共有しておけば、利用者も納得して「できることは自分でやる」し、ヘルパーも余裕をもってサービスを提供できます。
ここで「利用者が自分でできること」の意味を考えてみましょう。「できること」とは、包丁で野菜が切れる、掃除機をかけられる、洗濯物をたためるなど、体を動かさなければならない行為だけではありません。
寝たきりの人であっても、「今日は魚にしますか、肉にしますか?」「お味、いかがですか?」などと質問して、利用者の意思を調理に反映させる。これも「できること」です。こう考えると、要介護度の高い人でも「できること」はたくさんあることがわかりますよね。
ある大学の介護を専門とする先生が、こう言っていました。「利用者から『ありがとう』と言われると嬉しいと、ヘルパーさんはよく言いますよね。
でも、利用者はヘルパーから感謝されることは、まずありません。利用者にやってもらって助かったときは、『ありがとう』と感謝の言葉を伝えてほしいですね」と。
自分も役立っているという実感は、利用者の命を輝かせるのではないでしょうか。