
東北の片田舎で二人暮しをしていた両親が、今年の7月に、県庁所在地にあるサービス付き高齢者住宅に転居しました。総合病院やデパート、市役所、劇場などがある繁華街エリアなので、このうえなく便利な環境です。サ高住と一言でいっても様々ですが、両親の住まいの場合は、管理人が24時間常駐し、事前に申し込んでおけば食事を食堂でいただくことができます。また、寝室、トイレ、浴室、リビングに緊急呼び出しベルが付いており、リビングでは管理人と直接話ができます。
両親ともに満足していますが、特に母は「ここに転居してホントによかった」と実感している様子。その理由をたずねてみると、「二人暮らしのときは、どちらかが突然倒れたりしたらどうしようと常に不安だったが、今は安心して暮らせる。たとえ私が入院したとしてもお父さんの食事の心配もない」。
緊急時の不安が解消し、心にゆとりが生まれたことが満足感となっているようです。また、これまで豪雪地帯に住んでいたため、冬は早朝の雪かきが不可欠でした。でも、今年の冬からは雪かき不要に。過酷な肉体労働である雪かきから解放されたいという望みが叶ったことも喜びとなっています。
快適で安心な暮らしと引き換えに、両親は長年住み慣れた住まいを手放しました。売却したのではなく、町に土地を寄付したのです。実家は製材所を営んでいたため土地が広大で、しかも基礎を万全にするため地下深くまで鉄骨が埋め込まれており、解体・整地するだけで相当の費用がかかるとのこと。「そもそもこの土地が売れるとも思えないし、お金をかけて整地して売れたところで手元にお金は残らない。だったら寄付したほうがいい」との判断だったようです。
母は、こうも続けます。「不動産(自宅の土地)への執着を捨てられないから、高齢者はギリギリまで自宅で生活しようとする。自宅で死ねないのはわかっているんだから、元気なうちに不動産を処分して新しい暮らしをスタートさせたほうがいい。割り切りが大切だ」と。都市部の資産価値のあるエリアに住んでいる高齢者とは事情は違うかもしれません。でも、不動産が高齢者の新たな一歩を阻んでいるという側面はあるのではないでしょうか。




