秋暑の折、皆さまいかがお凌ぎでいらっしゃいますでしょうか。
本日は厳暑の夏のある日の出来事をおひとつ。
私はケアマネジャーとして、お一人暮らしの男性、85歳、マツオさん(仮名)の担当をさせて頂いていました。その方には認知症がおありですが、日頃はヘルパーさんの家事のお手伝いや、デイサービスをご利用になりながら、ご自宅でひとり気ままにお暮らしになっていました。
気温36度を計測したある日、ご自宅で過ごされているマツオさんのことが心配になり、ご様子を伺いにお宅を訪問しました。呼び鈴を押し、玄関扉の外から来訪を告げると、「おう、来たのか。あがれよ!」と快活なお声が聴こえてきます。「ご無事だった…」とひと安心。お預かりしている合鍵で玄関を開錠し、お部屋の引き戸を開くと、そこには肌着の上に綿入れ半纏を羽織り、毛糸の帽子をすっぽりとかぶった主のお姿。ご自分で淹れたホットコーヒーを飲みながら、「よお、調子はどうだ?」と、ご親切にも私の具合を尋ねてくださるではありませんか。衝撃的な光景にたじろぎつつ、私は極力平静を装い、「おかげ様で…。マツオさんこそ、ご体調はいかがですか…」とお返ししたところ、「まあまあだ…ちょっと暑いかな?」とのご返答。室内は熱帯さながらの暑さ。目をやると扇風機はつけられることなく、エアコンにいたってはコンセントが抜けています。「ああ、クーラーね。電気代もったいないから抜いといた」と、マツオさん談。ふと思いいたり、恐る恐る台所へ行ってみると、ご丁寧に冷蔵庫のコンセントも抜いてあり、それは立派な温蔵庫と化していました。床上はとけだした氷などにより水浸しの有様です。マツオさん、台所に顔を出し、「節電な!」と、誇らしげに微笑。「ああ…節電ですね…。」
ご承知の通り、年を重ねると体温調節機能が低下し、暑さ、寒さの感覚が鈍くなり、それに対する体の反応も鈍くなってしまいます。また、認知症が進むと季節の感覚が定かでなくなります。その為、喉の渇きにも気づかず、汗も出にくくなり、脱水症や熱中症の起きる危険性が高くなります。猛暑日でうだるような暑さであっても、マツオさんはわれ関せず。亡き奥様お手製のお気に入りの綿入れ半纏と毛糸の帽子を身に着けて「ちょっと暑いくらい」の感覚でいらっしゃいます。おまけに、マツオさんにおかれましてはご世代特有の「もったいない」のご精神高く、節電をもお心がけでいらっしゃいました。
こうしたご高齢者の方の心身の変化を常に念頭に、ご本人様が気付かないうちに体調を崩してしまわれることのないよう、私どもケアにあたる周囲の者が、室温調整、環境整備、熱中症対策を講じておかねばならないと、今いちど心あらためる出来事でした。
暑さが一段落しましたら、じきに向寒。これからの季節は寒さに気づかず、低体温症が起こりやすくなります。カイロや電気毛布などによる低温火傷にも注意が必要です。防寒対策や火傷予防を心がけ、そろそろ衣替えの準備、冬支度をはじめて参りましょう。
季節のかわり目、夏のお疲れも出る頃です。介護に携わられる皆さまも、どうぞ一層ご自愛くださいますように。