東京都は10月13日、「第6回地域ケアシンポジウム」を都内で開催した。高齢者が住み慣れた地域で暮らし続けるための支援をテーマに開かれた本シンポジウムでは、300名を超える参加者を前に、ヘルパー2級を取得した落語家の講演が行われた。
林家三平氏に師事して落語家のスタートを切った林家源平氏は、テレビの笑点にも出演したが、妻の自律神経失調症発症を機にヘルパー2級を取得。取得直後の2005年からデイサービスで5年間勤務した経験を持つ。その体験を「落語家さんのヘルパー修行日記」として、介護にたずさわっている人々の癒しにつなげようと、各地で講演している。
林家氏は、デイサービスで出会った5人の認知症の利用者と接した経験を約1時間にわたり語った。「家に帰りたい」と繰り返す人、「財布がない」と騒ぎ出す人など、介護現場ではおなじみの光景が時折、歌を交えて紹介された。
トイレットペーパーを便器に大量に入れて手でかぎ混ぜ、「お米を研いでいる」という利用者には、「そうですか。そろそろお茶にしましょうか」と、場を離れるよう声をかけたエピソードを林家氏が披露すると、参加者の大半を占める高齢者は、一様に感心した表情を浮かべた。
また、四国で暮らす実母が、高齢者をねらった訪問販売の被害にあったため、年金管理は兄夫婦がしていることを紹介しながら、「高齢者を守るには周囲の協力が不可欠」と地域での見守りの必要性を訴えた。
林家氏の講演に続き、後半はパネルディスカッションが行われた。パネリストには、小規模多機能型居宅介護 ユアハウス弥生所長の飯塚裕久氏、小金井にし地域包括支援センター管理者の久野紀子氏、全国マイケアプラン・ネットワーク代表の島村八重子氏、武蔵野市健康福祉部高齢者支援課長の渡邊昭浩氏が登壇した。
ケアマネジャー資格を持つ飯塚氏からは、元ピアノ教師が認知症でピアノ教室をたたんで以来、引きこもりとなったが、小規模多機能の利用者の1人が生徒となったきっかけから、4年ぶりに外出して同事業所で生徒となった利用者の誕生祝いをしたことが実践例として報告された。日々の記憶が失われてしまっても、プロジェクターで写真を映して活動を思い出す回想法も紹介された。
看護師、ケアマネジャーを経て地域包括支援センターに勤務する久野氏からは、詐欺被害にあった85歳の女性の事例が報告され、押入れに入れるマットなど総額45万円近い被害が告げられると、会場からは「はぁ」という、ため息がもれた。久野氏は、悪徳商法被害防止のためにも地域包括支援センターの活用を参加した高齢者に呼びかけた。
ケアプランの自己作成活動を推進する全国マイケアプラン・ネットワーク代表の島村氏は、義母のケアプラン自己作成からホスピスで看取るまでの経緯を紹介。11年間も付き合った在宅医に、不調を訴えた際に“おおかみ少年”扱いをされたことに怒った義母が医師と絶縁したことを語り、「がんを見つけられなかったことよりも医師の態度が本人を傷つけた。本人の身体や気性を知る医師と縁が切れたのは痛恨」と述べ、地域ドクターとの関係の重要性を指摘した。
渡邊氏は、武蔵野市における介護保険制度と高齢者施策の特徴を報告し、6つの在宅介護支援センターにケアマネジャーをエリアごとグループ化して、毎月、地区別ケース検討会を実施していることや、認知症の見守り支援として介護保険外のサービスで週4時間以内1時間500円の見守り、話し相手、散歩などのヘルパー派遣などをあげ、行政の取り組みをアピールした。