市民福祉情報オフィス・ハスカップは、9月25日、介護弁護士・外岡潤氏による「介護弁護士流 介護トラブルの解決法」と題して、ハスカップ・セミナー2012 No.04を開催した。
外岡氏は介護問題を専門とする弁護士。ホームヘルパー2級、ガイドヘルパー資格を取得し、2009年には巣鴨で「介護・福祉系法律事業所おかげさま」を設立。介護現場で起きる転倒・骨折などのトラブルについて、利用者、施設側双方からの相談に応じている。また、マジシャン志望だった経験を生かし、介護保険施設などでボランティア活動もしているという多彩な顔も持つ。
介護をめぐって利用者や介護者、事業者や介護スタッフが抱える事故やトラブルは多岐にわたり、解決方法も話し合いでは終わらず、調停や裁判など司法の場に持ち込まれることも多くある。しかし、外岡さんが強く訴えているのは「介護の世界に裁判は適さない」ということ。そのためには、介護版「裁判外紛争解決制度(ADR)」による問題解決の道筋を提案している。
1)介護現場で起きる利用者・事業者間のトラブルの実態
介護事故の上位を占めるのが、歩行中の転倒事故、ベッドや車いすからの転落事故、食事中の誤嚥や誤飲、おむつ交換時の骨折や圧迫によるあざなど。こうした事故は、いくら注意していても避けられるものではない。しかも、お互いに不信感があると、あっという間に誤解が生じ、トラブルへと発展してしまう。
利用者としては、「介護のプロの癖にこんなこともできないなんて。高いお金を払っているのに」「あれもしれくれない、これもしてくれない、約束が違うじゃない」など、思い描いていた期待と現実にギャップがあると、相手への不信感を感じてしまう。そして、「気にはなるけれど、一生懸命してくれているのだから言い出せない」といった遠慮から、本音が言えないまま不満な気持ちを溜めていることになる。
一方、介護者側は、「それは家にいても起きる事故だから」と責任を回避する気持ちや、「正直に話すと怒られるから黙っておこう」と報告をためらう気持ちを持つことがあり、そうした態度が、利用者の不信感を膨らます原因になっている。
2)介護現場でのトラブルの回避方法
そもそも、自分が入りたい(大切な親を預けたい)良い施設は何かを考えてみると、きめ細かく質の高い介護、明るく風通しのよい施設、清潔でこぎれいな建物、リーズナブルな料金設定、美味しい三度の食事、最期まで私らしくいられる施設などが考えられる。しかし、一見、パーフェクトに見えて実は誠意が無い施設が問題である。本当に良い施設とは「事故やトラブルに誠意を持って対応してくれる施設」と定義できるのではないか。
介護者や事業者が最も注意を払うべきことは、事故・トラブルの想定外の事態。それに備えるには、事前(特に契約前)によく説明をし、利用者の不安に答えるなど、よく話し合っておくこと。そして、トラブルを忌避せずに、入所後もコミュニケーションを取り続けることが大切になる。
いざ事故が起きたときに、介護者が以下のことを率先してやってくれるかが重要になる。利用者の側から働きかけないと、動いてくれない場合が多い。
1.直ちに事故後の応急処置をしてくれるか。
2.家族に連絡してくれるか。
3.事故を起こしてしまったことについて、真摯に謝罪してくれるか。
4.事故が起きた原因を究明し、再発防止に活かすと約束してくれるか。
5.事故後、退院後やリハビリなど、その後の経緯についてもフォローしてくれるか。
大切なのは、利用者と介護者が協力し合うこと。「裁判になれば敵味方」「お客様とサービス提供者」という硬直的な関係から、介護者側は「利用者に育ててもらう」という意識、利用者側は「単なるお客様ではなく、施設は生活の場の延長。そこで働くスタッフは家族に準ずる人たち」という意識を持つことが大切になる。お互いに感謝の気持ちで接することだといえる。
――ハスカップセミナー(2)へ続く
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