8月28日、東京・赤坂でシルバーサービス振興会の月例研究会が開催された。労働政策研究・研修機構研究員の堀田聰子氏による、「オランダの地域包括ケアとコミュニティケアの担い手たち」と題した講演の後半、統合ケアの観点から見たオランダのケア提供体制について報告する。
統合ケアは、90年代の欧米でのヘルスケア政策改革に共通する概念。複数の慢性疾患を抱えて地域で暮らす人が増え、長期ケアに関わるサービスの断片化と連続性の欠如が問題になっていた。さらに、障害者や慢性疾患患者に対する医療に対する考え方が「治す医療」から「支える医療」に変わってきたことなどから、諸外国では統合ケアへの流れが進んでいったと堀田氏はいう。
統合ケアの概念や要素は国によってさまざまだが、ここでは運営の統合、サービスの共同配置、ケアのネットワーク、ケースマネジメント、切れ目ないケア提供に向けた連携、サービス付き住宅の6つの観点からオランダのケア提供体制が紹介された。
オランダでは80年代以降、プライマリケアの一体性を高める観点から、多職種協働のプライマリケアセンター整備が推進された。90年代には地域看護とホームケア、助産ケアの組織が統合され、在宅ケアが一つのドメインに。
プライマリケアセンターには、家庭医、在宅ケア、ソーシャルワーカーを三本柱としてリハビリ、栄養士、小児ケア、薬局等を配置。福祉機能も集約され、高齢者に対しては日本のソーシャルワーカー的な存在である高齢者アドバイザーが、住宅や介護、福祉等に関わる助言や必要な支援をアレンジする場合もある。ケースマネジメントの制度上の位置づけはないため、そのあり方は多様で、高齢者アドバイザーのほか家庭医、看護師、介護士など、様々な職種が担っている。また、ケースマネジメントとケアを一体的に提供する組織も少なくないと堀田氏はいう。
中でも、急成長しているのが、地域看護師が起業した在宅ケアの事業者だ。1チーム最大12人のナースが約40〜60人の利用者を担当し、全土で約5000人のナースが総計約5万人の利用者を支援している。各チームに事務職はおらず、わずか30人の管理部門が業務管理を担当。他の事業者が平均25%かけている間接費を8%に抑えている。ナースは6割以上が学士レベル以上の地域看護師で、あらゆるタイプの利用者に対してケースマネジメントから包括的なケア提供まで、全プロセスを担う。クライアント1人あたりのコストは他の在宅ケア組織の半分でありながら、利用者満足度は1位、従業員満足度も高く、全産業を合わせて最も成長している事業者だと堀田氏はいう。
この事業者のコストダウンのポイントとしては、セルフケアやインフォーマルサービスを引き出して専門職ケアを次第に置き換えていること、分業せず1人がトータルにケアする体制をとり、移動や連絡・調整の無駄を省いていること、ヒエラルキーのないフラットな組織にしてナースがクライアントとの関係構築に集中できる環境を作り、効率性を高めていること等を、堀田氏は挙げている。
オランダではまた、2000年代に入ってからコーディネイトされた認知症ケアの実現に向けた取り組みが進められたという。全国57地域において、認知症の人と介護者の視点から地域ごとの課題を抽出。当事者の言葉を用いて整理された14の問題領域に対応して認知症の人と介護者、専門職が改善に向けたプロジェクトを実施。これにより、各地域におけるよい認知症ケアを明確化。どの段階で誰が関わるのかといったガイドラインが作られ、各地域でガイドラインに沿ったケア購入に向けた実験を経て、全土にケースマネジメントを含むコーディネートされた認知症ケアが普及した。
堀田氏はこのほか、オランダでは産業界と教育界が対話を繰り返して、資格のあり方の検討や教育カリキュラムの改訂を繰り返していることなどについても紹介。日本でも、ケア関連領域横断のプラットフォームを設置し、実践と理論を併せて長期的展望を描いた上での現状の評価と、ケア関連資格のあり方を実践から振り返る視点を加えて定期的に見直していくことの必要性を訴えた。
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