厚生労働省は、平成22年度の高齢者虐待の対応状況等に関する調査結果を、12月6日に発表した。この調査は・高齢者虐待防止法施行5年目に入り、「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」(以下「高齢者虐待防止法」)に基づき、実態を把握するために実施した。
調査は全国1,745市町村(特別区を含む。東日本大震災の影響により、調査報告が困難であった岩手県・宮城県の5市町を除く。)及び都道府県。
■調査結果:
介護老人福祉施設など養介護施設又は居宅サービス事業など養介護事業の業務に従事する者(養介護施設従事者等)による高齢者虐待の市町村等への相談・通報件数は506件あり、前年度の408件より24%増加した。また、それらの相談から虐待と判断され市町村等による対応が行われた件数は96件ある、こちらも前年度の76件より26.3%と大幅に増加した。
一方、高齢者の世話をしている家族、親族、同居人等(養護者)よる高齢者虐待の相談・通報件数は2万5315人で、前年度の2万3404件より8.2%増加し、そのうち養護者による虐待と認められたものは1万6668件あり、こちらも前年度の1万5615件を6.7%上回り、今回の調査は、高齢者虐待防止法施行以来、最悪の結果となった。
虐待の種類・類型をみると、養介護施設従事者等による高齢者虐待は「身体的虐待」が70.8%、次いで「心理的虐待」が36.5%となっており、被虐待高齢者は、女性が74.7%を占め、年齢は80歳代が42.5%であった。
一方、養護者による高齢者虐待の種類・類型は、「身体的虐待」が63.4%、次いで「心理的虐待」が39.0%となっており、被虐待高齢者は、女性が76.5%、年齢は80歳代が42.2%であった。
・市町村における高齢者虐待防止対応のための体制整備等については、平成22年度に高齢者虐待の対応窓口を住民へ周知した市町村は82.8%であった。
施設虐待の報告数は、家庭での家族らによる虐待報告数の50分の1にとどまっているが、表面にでるのは氷山の一角であり、事件として新聞等で報道される事例では、寝たきりで発語もできない入所者に「ストレス解消」などの理由で虐待を繰り返したり、在宅に比べ重度の高齢者が多い施設での、虐待による窒息死、骨折などが顕著だ。
家族らによる虐待では、通報者の4割以上がケアマネジャーであることが目を引く。日ごろから要介護者の様子を気にかけている専門職がいち早く虐待を察知し、解決していることがうかがえる。
■養介護施設従事者等による高齢者虐待:
・平成22年度に相談・通報のあった件数は、506件であり、前年度より98件(24.0%)増加した。
・相談・通報者は、「当該施設職員」が34.8%で最も多く、次いで「家族・親族」26.1%であった。
・市町村又は都道府県が事実確認調査を行い、虐待の事実が認められた事例は、96件であり、前年度より20件(26.3%)増加した。
・虐待の事実が認められた事例における施設種別は、「特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)」29.2%、「認知症対応型共同生活介護(グループホーム)」21.9%、「介護老人保健施設」17.7%の順であった。
・虐待の種別・類型では、「身体的虐待」が最も多く70.8%、次いで「心理的虐待」36.5%、「介護等放棄」14.6%であった(重複あり)。
・被虐待高齢者は、女性が74.7%を占め、年齢は80歳代が42.5%であった。要介護度は3以上が75.2%を占めた。
・虐待者は、40歳未満が45.6%、職種は「介護職員」が76.0%であった。
・虐待事例への市町村等の対応は、施設等への指導、改善計画の提出のほか、法の規定に基づく改善勧告、改善命令が行われた。(
■養護者による高齢者虐待:
・平成22年度に相談・通報のあった件数は、25,315件であり、前年度より1,911件(8.2%)増加した。
・相談・通報者は、「介護支援専門員等」が43.4%で最も多く、次いで「家族・親族」12.6%、「被虐待高齢者本人」10.7%であった。
・これら通報・相談に対する市町村の事実確認調査は「訪問調査」63.2%、「関係者からの情報収集」32.2%、「立入調査」1.0% により実施された。
・調査の結果、虐待を受けた又は受けたと思われたと判断された事例は、16,668件であり、前年度より1,053件(6.7%)増加した。
・虐待の種別・類型では、「身体的虐待」が63.4%で最も多く、次いで「心理的虐待」39.0%、「介護等放棄」25.6%、「経済的虐待」25.5%であった(重複あり)。
・被虐待高齢者は、女性が76.5%、年齢は80歳代が42.2%であった。要介護認定の状況は認定済みが68.3%であり、要介護認定を受けた者を要介護度別に見ると、要介護2が21.6%、要介護1が20.1%の順であった。また、認知症日常生活自立度?以上の者は、被虐待高齢者全体の47.1%を占めた。
・ 虐待者との同居の有無では、同居が85.5%、世帯構成は「未婚の子と同一世帯」が37.3%で最も多く、既婚の子を合わせると63.7%が子と同一世帯であった。続柄では、「息子」が42.6%で最も多く、次いで「夫」16.9%、「娘」15.6%であった。
・虐待事例への市町村の対応は、「被虐待高齢者の保護として虐待者からの分離」が32.5%の事例で行われた。分離を行った事例では、「介護保険サービスの利用」が37.7%で最も多く、次いで「医療機関への一時入院」が20.1%であった。分離していない事例では、「養護者に対する助言指導」が49.8%で最も多く、次いで「ケアプランの見直し」28.8%であった。
・権利擁護に関しては、成年後見制度の「利用開始済み」が310件、「手続き中」が233件であり、うち市町村長申立は223件であった。
・市町村で把握している平成22年度の虐待等による死亡事例は、「養護者による殺人」10件10人、「介護等放棄(ネグレクト)による致死」6件6人、「心中」4件4人、「虐待による致死」1件1人で、合わせて21件21人であった。
◎平成22年度 高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律に基づく対応状況等に関する調査結果
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