9月3日、社会保障審議会介護給付費分科会(田中滋・分科会長 以下、分科会)の第107回が開かれ、第6期(2015~2017年度)の介護報酬改定における「介護人材確保」と「地域区分」について厚生労働省老健局から資料説明があり、委員から自由発言が行なわれた。
専門紙では、「人材確保、『介護報酬だけじゃない』」(シルバー新報)、「介護の地域区分の見直しなどを提案 厚労省、介護給付費分科会で」(キャリアブレイン)などの報道があった。
■「人材確保」会議は目白押し
厚生労働省は、「介護人材確保」について、介護報酬上の議論(老健局担当)とは別に、2月から職業安定局を事務局に「人材不足分野等における人材確保・育成対策推進会議」(佐藤茂樹・厚生労働副大臣・座長)を開き、省内8局長を構成員に「介護・保育・看護・建設」の4分野の人材確保と育成対策の検討を行い、9月3日に「取りまとめ」を公表している。
また、通常国会で成立した「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律」(医療介護総合確保推進法)にもとづき、消費税の引き上げ分で都道府県に基金(2014年度は公費904億円)を作り、「新たな財政支援制度」を実施する予定だが、「介護従事者の確保のための事業」も候補にあがっている。具体的な内容は、保険局が設置した医療介護総合確保促進会議(田中滋・座長)が検討中で、8月29日、「総合確保方針(素案)」が公表された。同会議は年明けまでに「福祉人材確保指針」をまとめる。
一方、6月から社会・援護局が福祉人材確保対策検討会(田中滋・座長)を設置し、8月26日に「介護人材確保の方向性について~中間整理メモ~」を公表した。同検討会は「福祉人材確保対策の在り方全般」の検討を行い、今秋をめどにとりまとめを行う。
また、8月27日、社会保障審議会福祉部会(田中滋・部会長)が再開された。同部会は社会・援護局が事務局で、「福祉部会における主な検討事項」は社会福祉法人制度が主要テーマだが、福祉人材確保対策として「介護人材等の総合的な確保方策」、「介護福祉士の位置づけ・介護福祉士の資格取得方法」も取り上げる。部会の下には、福祉人材確保専門委員会が設置される予定だ。
■“補正”された介護職員数
分科会では「介護人材確保対策について」(資料1)にもとづき、武内和久・社会・援護局福祉基盤課福祉人材確保対策室長から「介護職員数」の推移について説明があった。
介護職員数は2000年度の54.9万人から、2012年度は168.6万人と3倍に増えた(1ページ)。今回示されたデータは、2009年~2012年度について調査方法の変更や回収率が下がったことから、社会・援護局で「補正」した数字という。
これまで示されたデータでコンパクトだったのは、介護職員の処遇改善等に関する懇談会(2012年5月11日)の資料5「介護職員をめぐる現状と人材の確保等の対策について」の「介護職員数の推移」だった。
この資料と分科会資料を比較すると、2008年は134.3万人だったのが補正後は141.3万人(7万人増)、2009年は133.4万人だったのが147.9万人(14.5万人増)、2010年は139.9万人だったのが147.9万人(8万人増)とかなりの誤差があったことになる。
いずれにしても、介護職員は2025年度には約100万人増の「237~249万人」が必要と推計されている(11ページ)。
■離職率が高いのは常勤ヘルパーと非常勤の「訪問介護員以外」
介護職員は「訪問介護員」(以下、ホームヘルパー)と「訪問介護員以外」に分けられ、ホームヘルパー46万人(常勤13万人、非常勤33万人)、「訪問介護員以外」は122万人(常勤89万人、非常勤34万人)だ(2ページ)。
介護職員の離職率が高いことは長く課題となっているが、「離職率は低下傾向にあるが、産業計と比べて、やや高い水準」と報告された。2012年度の離職率は産業計が14.8%、介護職員は17.0%で、2.2%の開きとなる。
ホームヘルパーの離職率は常勤17.5%、非常勤12.6%で、「訪問介護員以外」の離職率は常勤16.7%、非常勤21.3%と傾向が異なる。産業計(14.8%)に比べて、ホームヘルパーは常勤、「訪問介護員以外」は非常勤の離職率が高い(3ページ)。
事業所の規模別にみると、従業員数が50人を超えると離職率が低下する傾向にあるとの説明があった(5ページ)。
■3都県は有効求人倍率が3倍超
事業所サイドの「人手不足感」はホームヘルプ・サービス事業所で27.1%、「訪問介護以外」は17.1%になり、その理由は「採用が困難」が約7割だ(7ページ)。
都道府県別にみると、有効求人倍率が2.0倍を超えるのは16都府県で、なかでも東京都、岐阜県、愛知県は3.0倍を超えている。ただし、「地域の高齢化の進行で今後も変化する」との説明があった(6ページ)。
なお、有効求人倍率は、ハローワークを通じた求職者に対する求人数の比率で、新卒者は除外される。倍率が高くなるほど求職者、つまり応募者が少ないことになる。
■介護福祉士が辞める理由
介護職員の保有資格はホームヘルパー2級と介護福祉士が多いが、資料では「2012年度社会福祉士・介護福祉士就労状況調査」(公益財団法人社会福祉振興・試験センター)を用いて、介護福祉士の入退職理由を紹介した。
介護福祉士の入職理由は「やりたい職種・仕事内容」(40%)、「通勤が便利」(38%)、「能力や資格が生かせる」(34%)で、退職理由は「結婚、出産・育児」(32%)、「法人・事業所の理念や運営に不満」(25%)、「職場の人間関係」(25%)となっている(8~9ページ)。
「介護職員に占める介護福祉士の割合」は、2012年度段階で37.6%だ(17ページ)。
「2013年度介護労働実態調査」(公益財団法人介護労働安定センター)は介護職員1万8,881人の回答を集計・分析しているが、介護福祉士の資格を持つのはホームヘルパーで41%、介護職員で55%だ。介護福祉士のほかホームヘルパー1級・2級を含む同調査では、入職理由はほぼ同じだが、退職理由は「職場の人間関係」(25%)、「法人・事業所の理念や運営に不満」(23%)、「他に良い仕事・職場があった」(19%)が多く、「結婚、出産・育児」(10%)は低い結果になっている。
■世論のマイナスイメージも「阻害要因」
「2010年介護保険制度に関する世論調査」(内閣府)では、介護職員に対するイメージは「夜勤などがあり、きつい仕事」(65%)、「社会的に意義のある仕事」(58%)、「給与水準が低い」(54%)で、「マイナスイメージが人材参入の阻害要因になっているとの指摘がある」と報告された(10ページ)。
■「三位一体」の介護人材確保
介護職員の離職率は他産業より高く、採用困難な事業所が多いなか、分科会資料では「阻害要因」の分析はあいまいだ。
だが、「量的確保のみならず、質的確保及びこれらの好循環を生み出すための環境整備の三位一体の取組を進めていくことが重要」(13ページ)として、「環境の改善」(介護職員処遇改善加算、労働環境改善)、「多様な人材の参入促進」(マッチング強化、修学支援、人材の開拓、イメージアップ)と「資質の向上」(キャリアパスの確立、キャリアアップ支援)が示された(14ページ)。
■介護職員処遇改善加算の状況
「環境の改善」には2012年度に新設された介護職員処遇改善加算(以下、処遇改善加算)が含まれるが、分科会は第5期(2012~2014年度)限定の「例外的かつ経過的な取扱い」としている(24ページ)。
処遇改善加算が第6期(2015~2017年度)も継続されるのか、基本報酬に組み込まれるとして少なくとも現行の給与水準以上になるのかは焦点のひとつだ。
処遇改善加算の届出事業所は全体では87.2%(2013年)になるが、ホームヘルプ・サービス(84%)とデイサービス(86%)、介護療養病床(57%)は平均を下回る。算定率が9割を超えるのはショートステイ、認知症グループホーム、特別養護老人ホーム、老人保健施設など10サービスになるが、訪問介護(79%)とデイサービス(79%)、デイケア(77%)など在宅サービスの算定率が低い傾向にある(29ページ)。
■介護職員の給与の状況
介護職員処遇改善交付金が創設された2008年以降、厚生労働省は「介護従事者処遇状況等調査」を実施しているが、第99回分科会(3月17日)で報告された2013年の調査結果が再び示された(30~45ページ)。
2012年9月と2013年9月の平均給与の比較で、「常勤・月給の者」(施設職員が多い)は7,180円、「非常勤・時給の者」(ホームヘルパーが多い)は10円の増となっている。
この結果、「処遇改善の取組は着実に浸透している」、「安定的かつ継続的な処遇改善につながっている」が、「キャリアパスの確立に向けた取り組みは依然として改善の余地がある」と“総括”されている。
■スーパー店チェッカーより高く、看護師より低い賃金
迫井正深・老人保健課長からは、「一般労働者」と介護職員の「賃金比較」について説明が行なわれた。
「2013年賃金構造基本統計調査」を用いて、「勤続年数別や学歴別の比較はできない」などの制約条件があるなか、「介護関係職種は、女性労働者の構成比が相対的に高い」(51ページ)、「ホームヘルパーや福祉施設介護員の勤続年数は総じて短い」(54ページ)などの特徴が示された。
賃金比較では、事業所規模、勤続年数別の職種間比較のグラフが示され、全体としてはスーパー店チェッカー、給仕従事者、販売店員の賃金を「おおむね上回る」か「高水準」だが、保育士と准看護師の賃金と比較すると「おおむね低水準」か「おおむね同水準」になり、看護師、理学療法士・作業療法士の賃金と比較すると「おおむね低水準」か「低水準」であることが説明された(50~73ページ)。
なお、スーパー店チェッカーは「スーパー店において、来客の買い上げた品物を点検し、品物の代金を金銭登録機に登録し、来客より現金等を受け取り、領収書を発行し、来客に対しつり銭を渡す仕事に従事する者」、給仕従事者は「飲食店、喫茶店、旅館、ホテル等において、客の接待、身の回りの用務、部屋の清掃、食卓の用意、食事の給仕等のサービスに従事する者」、販売店員は「店舗(百貨店を除く)において、商品を販売(卸売・小売を問わず)する仕事に直接従事する者」と定義されている。この3職種と介護職員の賃金を比較する根拠について、説明はなかった。
ちなみに、分科会資料のホームページ公表の際、厚生労働省は「資料1の数値訂正」として、「男性のスーパー店チェッカー」や「女性の鉄筋工」の数値訂正を行った。
このほか、サービス提供体制強化加算(78~80ページ)、関連施策としてキャリア段位制度(81~88ページ)、介護ロボット(89~96ページ)、介護サービス情報の公表制度における介護従事者に関する情報の公表(97~102ページ)などの説明が行なわれた。
■介護人材の「主な論点」
「介護人材確保対策」の分科会における「主な論点」として、下記の5項目が示された。
・賃金水準のみならず、「参入促進」「資質の向上」「労働環境・処遇の改善」の総合的な対策を講じる視点で、介護報酬での対応と「新たな財政支援制度(基金)」を組み合わせた対応が必要ではないか。
・他職種・他産業との比較では相対的に賃金が高い層もある。更なる資質向上、雇用管理の改善を通じて社会的・経済的評価が高まる好循環を生み出すことが安定的な処遇改善につながると考えるかどうか。
・介護職員処遇改善加算の取得は必須要件になっておらず、改善の余地があると考えるがどうか。また、労働条件は本来、労使間で自律的に決定されるべきものであることから、仮に基本サービス費で評価する場合、処遇改善の取組が後退しない方策をどのように考えるか。
・都道府県は「新たな財政支援制度(基金)」を活用し、介護人材を「地域全体で育み、支える」環境を整備する取組が重要になる。介護サービス情報公表制度とも連動し、事業者の取組が促進される仕組みにしていくことが必要ではないか。
■加算継続の是非は「各論」で
処遇改善加算をめぐっては、内田千惠子・委員(日本介護福祉士会)は「基本報酬に移行するにしても必ず給与に反映する方策が必要であり、加算を残してもらいたい」、齊藤秀樹・委員(全国老人クラブ連合会)は「労使間が充実していないなか、加算の継続が必要」、小林剛・委員(全国健康保険協会)は「収支差、労働分配率などを含めて加算の継続の検討を」、平川則男・委員(日本労働組合総連合会)は「処遇改善加算の継続など、確実に処遇改善が進められる仕組みの検討と増額が必要」(参考資料4)、村上勝彦・委員(全国老人福祉施設協議会)は「発展的な形で加算として継続するべき」(参考資料6)と来期の継続を求めた。
本多伸行・委員(健康保険組合連合会)は「労使間で決めるべきで、加算は継続すべきではない」、阿部泰久・委員(日本経済団体連合会)は「処遇改善は経営層が自ら取り組むべき課題であり、収入の使い道を公的に指示・監視する加算を存続させるべきではない」(参考資料3)と反対した。
齋藤訓子・委員(日本看護協会)は「加算を残すなら要件を必須に」と条件つきとし、鈴木邦彦・委員(日本医師会)は「所定内給与が前年度を下回らないようにすべき」、福田富一・委員(全国知事会)は「介護報酬改定を通じた給与の改善を」(参考資料5)と給与水準の維持を求めた。
田中滋・座長は「介護職員は政府の直接雇用でも、民間の労使関係でもない準市場にあり、継続して検討を」としめくくった。
なお、「地域区分」については資料2、参考資料1「2014年人事院勧告[抄](地域手当の見直しについて)」を参照してもらいたい。
分科会は今回で介護報酬改定の「総論」の資料説明と自由討論は終了し、9月の事業者団体ヒアリングを経て、10月から「各論」の議論に入る(第100回分科会資料1「介護給付費分科会における今後の検討の進め方について(案)」参照)。
9月10日、第108回分科会では事業者団体ヒアリングの1回目が予定されている。