医療・福祉コンサルタントのメディカル・マネジメント・プランニング・グループ(MMPG)は、7月16日、都内で第119回定例研修会を開催した。定例研修会は毎回、外部から講師を招き介護・医療保険制度、医業経営などを学ぶもので、炎天にもかかわらず数多くの会員らが参加した。
この日、講師を務めたのはNPO在宅ケアを支える診療所・市民全国ネットワーク会長の黒岩卓夫氏。新潟県で医師として在宅ケアの推進に尽力する黒岩氏は、在宅医療の歴史や多職種の役割を検証しながら医療と介護が融合した高齢者ケアの理念を説いた。
まず黒岩氏は「よく“医療と介護の連携”とお題目のように唱えられるが、介護は高齢者の“生活”を支え医療は“健康”を支える。介護職と家族が支える在宅生活があるからこそ医療が必要となる。医者の中には“私が月2回訪問しているから年寄りが命をつないでいる”と自慢する人もいるが、それは大きな間違い。医者は安心感を与えることはあるが、あくまでも生活が基盤」と、介護と医療の役割を示しながら両者が連携する必要性に触れた。
次に昭和まで地元に伝承されていた事例として、盲目の女性旅芸人が三味線をたずさえて村々を回る“越後瞽女(ごぜ)”を取り上げた。瞽女の訪問は封建社会の農婦達にとって数少ない娯楽と情報を得る機会であり、吐き出し先のないグチを聞いてもらうなど、カウンセラーの役割を果たしていたと紹介。黒岩氏は「現代に高齢者宅を訪れている医師や介護職は、瞽女のような癒しの役割を果たしているか。ああしろ、こうしろと強い立場になっていないか」と会場に問うた。
また、現在の高齢者施策の課題の1つとして在宅療養を望んでも実現できない医療構造があるとして社会的入院の蔓延を危惧した。一般病院での高齢者入院の3分の1、療養病床の半分が長期入院を続ける社会的入院であり、国の財政的損失は年1兆円以上にも上るデータを示し、その背景には患者側の病院への高い依存、家族の介護負担の問題、病院側では病床あたりのマンパワー不足から床ずれ・認知症・廃用症候群などを予防できない低密度医療などを挙げた。
地域での高齢者の居場所については「認知症の人だけ、胃ろうの人だけを集めた施設や医療機関も存在しているのも事実。ケアの効率化を考えればそうした集約が便利かもしれないが、人の扱い、人間社会のコミュニティーとしてはどうなのか」と疑問を投げた。
そして「誰もが年老い社会で共存していく以上、迷惑をかけ合う関係があってもいい。それを助け合い、支えるために在宅医療や介護をはじめとする複合的なサービスが混在した地域が形成されるべき」と訴えた。
黒岩氏は、介護保険におけるケアプランも「1人の人間が自分の最期をどう生きたいか、どんな看取りを望んでいるかが反映された“ライフプラン”が根底にあるべき」と要望し、「昔はとにかく家族と家にいるのが1番良いという考え方がまかりとおっていたが、嫁姑関係など、いがみ合いの中で暮らすよりも“居心地良く”暮らせて、仲間ができスタッフがもてなしてくれるなど“居場所の良さ”が実感できることが重要」と高齢者の尊厳を維持する重要性を主張して講演を終えた。