運動する複数の人たちで輪になって、有酸素運動トレーニングと筋力トレーニングとを交互に組み合わせて行う「サーキット運動トレーニング」をご存知の人も多いことだろう。近年の健康ブームから、高齢者に人気のトレーニング方法だ。
東北大学加齢医学研究所スマート・エイジング国際共同研究センターの野内類助教、川島隆太教授らの研究グループは、サーキット運動を用いた無作為比較対照試験を高齢者64人を対象に行った結果、4週間のサーキット運動トレーニングが、「実行機能」「エピソード記憶」「処理速度」など、広範囲な認知機能を改善が認められたことを、10月23日に明らかにした。サーキット運動トレーニングは高齢者でも取り組みやすいため、今後急速な増加が見込まれる高齢者の認知症予防や認知機能リハビリなどへの応用が期待される。
【研究の背景】
一般に記憶力や処理速度などの認知機能は、年齢と共に低下する。高齢期に認知機能が低下すると認知症などを患い、日常生活に多くの不具合を生じる。このため、高齢期でも認知機能をなるべく維持向上することが望まれる。
一方、近年の健康ブームから、サーキット運動トレーニングに取り組む高齢者が増えている。このトレーニングは、運動する複数の人たちで輪(サーキット)になって、有酸素運動トレーニングと筋力トレーニングとを交互に組み合わせて行うもので、一回30分という短時間でできることから高齢者でも取り組みやすく、筋力向上や生活習慣病の改善などの効果が得られることが分かっている。
また、先行研究によれば、サーキット運動トレーニングを42週間継続することで記憶力が向上するという報告もある。しかしながら、先行研究では、「もっと短期間でも認知機能は向上するのか」「記憶力以外の認知機能は向上するのか」については明らかではなかった。今回の研究は、これらの不明点を解明するために実施した。
【研究成果の概要】
研究参加者は、精神疾患、脳疾患、高血圧の既往歴のない健康な高齢者64人とした。
サーキット運動トレーニングを実施する「介入群」32名と、実施しない「非介入群」32名とに分け、無作為比較対照試験を実施した。
サーキット運動トレーニングの内容は、筋力トレーニングと有酸素運動とを30秒間隔で繰り返す方式とし、トレーニングの間隔・期間は、1回30分、週3回とし、4週間実施した。トレーニング開始前・終了後に介入群・非介入群に対して認知機能検査を実施し、認知機能の変化を計測した。
これらの試験の結果、介入群が非介入群よりも、実行機能、エピソード記憶、処理速度の認知機能において改善することを見出した。
【研究成果の意義】
今回の成果より、高齢者でも4週間のサーキット運動トレーニングで広範囲な認知機能が改善することが判明した。団塊世代が65歳を超えつつある日本では、今後急速な高齢者の増加が見込まれている。サーキット運動トレーニングは、高齢者でも取り組みやすいことから、今後の高齢者の認知症予防や認知機能リハビリなどへの応用が期待される。
また、4週間という短期間でも広範囲な認知機能が改善することを見出した点、および高齢者を対象とした無作為比較対照試験である点から、従来にない画期的な研究成果といえる。
なお、同研究については、米国エイジング協会発行の専門誌AGEに掲載される。
◎東北大学
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/