日本介護ベンチャー協会が、5月17日に開催したセミナー「介護職のメンタルヘルスを考える」では、株式会社ヒューマンリソースマネージメント代表取締役の結城啓太氏も講演を行った。
ヒューマンリソースマネージメントは、メンタルヘルス対策のためのサービスを提供する会社。この日は、介護事業におけるメンタルヘルスケアの必要性と対策案を紹介した。
■精神障害に関する労災請求、1位医療、2位介護
日本では年間3万人前後の自殺者が出ており、そのうち、約9,000人が現役労働者である。精神障害などによる労災認定件数も年々増加しているという。
厚生労働省がまとめた平成23年度「脳・心臓疾患と精神障害の労災補償状況」によると、精神障害に関する労災補償の請求件数が最も多い業種が「医療業」で94件で、その次が「社会保険・社会福祉・介護事業」76件だ。
また、実際の損害賠償事例をみると、医療・福祉施設において、長時間拘束による過労と精神的緊張により自殺し、賠償金の認容総額が7,673万円にも上った事例もある。結城氏は、「賠償金は経費計上ができないため、内部留保から一括払いしなければならない」と、その金額的な負担はもちろんのこと、「従業員の離職、新規採用の困難、労基署からの追加指導や改善命令、対立志向のユニオンが結成されるなど、新たなストレスが生じる」と、説明する。
さらに、厚労省が策定した「第12次労働災害防止計画」において、第三次産業を最重点業種に位置づけ、なかでも、「特に災害の多い『小売業』『社会福祉施設』『飲食店』に対する集中的取組を実施」することが明記されている。
■お金をかけずにできる対策も
結城氏は、介護事業におけるメンタルヘルス対策のポイントとして次の4点を指摘する。
・事業場内体制の整備:計画策定・推進担当者の選任・専門スタッフの確保
・メンタルヘルス推進担当者の選任
・産業医選任(50人以上の事業場)
・衛生管理者の選任(50人以上の事業場)
・衛生推進者の選任(10人以上の事業場)
・教育研修の実施:衛生教育の実施計画の策定・セルフケアとラインによるケア
・セルフケアとはトップも含めた全員が行う自分のストレスマネジメント
・ラインケアとは上司や管理者が行うケア
・不調者の早期発見と適切な対応:過重労働者に対する面接指導・健康診断後の指導
・職場復帰支援:復職支援プログラムの策定・外部機関の活用
結城氏は、メンタルヘルス対策においては予防に取り組むことが重要であることを訴え、同社で行っている介護施設向けのカリキュラムも説明した上で、「お金をかけずにできる部分もある」と、ある企業の例を紹介してくれた。
その企業は、休職割合の高い業界で、ある時、「インフルエンザの対策をやります」と謳って、担当者が毎朝、出社してきた社員に「ちゃんと眠れましたか?」「熱はありませんか?」と質問し、少しでも問題があれば産業医につなげた。その取り組みを1年間続けたところ、休職者はゼロになったという。
メンタルヘルス対策は、これからますます重要になる部分だ。深刻な問題が生じる前に、まずは、できることから始めてみてみるのがいいだろう。