自然科学研究機構生理学研究所と米国ワシントン大学の研究グループは、脊髄損傷モデルサルの損傷された脊髄の部分を人工的にバイパスしてつなぐ「人工神経接続」技術を開発した。これにより、脳の大脳皮質から出る電気信号により、麻痺した自分自身の手を自在に動かすことができるようにまで回復させることに成功した。
脊髄は、脳と手や足をつなぐ神経の経路である脊髄が損傷し(脊損)、その経路が途絶えると、脳からの電気信号が手や足に届かなくなり、手や足が動かせなくなる。
しかし研究グループは、脊髄損傷においては、脊髄の神経経路が途絶えているだけで、脳の大脳皮質からの電気信号を損傷部位をバイパスして、機能の残っている脊髄に伝えてあげれば、手を健常に動かすことができると考えた。
そこで、特殊な電子回路を介して傷ついた脊髄をバイパスし、人工的につなげる「人工神経接続」の技術を開発。実際、脊髄損傷モデルサルの損傷した脊髄を人工神経接続によってバイパスさせたところ、手の筋肉を思い通りに動かすことができるようにまで回復した。
「人工神経接続」の模式図。損傷した脊髄の経路をバイパスして、人工的に脳と脊髄の運動神経をつなぐ技術。原画:理系漫画家はやのん。
研究グループの西村准教授は、「運動麻痺患者の切なる思いは、自分自身の体を自分の意思で自由自在に動かしたい、これにつきる。今回の手法はこれまでの研究とは異なり、ロボットアームのような機械の手(義手)を自分の手の代わりに使っていない。自分自身の麻痺した手を人工神経接続により、損傷した神経経路をブリッチして自分の意思で制御できるように回復させているところが新しい点。従来、考えられてきた義手やロボットを使う補綴より実現の可能性が高い(早道である)のではないかと考えている」と話している。
今回の研究結果が、脊髄損傷患者の手足の運動回復に応用されれば、脊損患者に「回復」という未来が見えてくることになる。
◎自然科学研究機構
http://www.nins.jp/
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