医療の進歩や開発の進展によって、世界の人口の大半は早死しなくなったものの、皮肉なことに病気を抱えながら長生きするようになった――。
東京大学大学院医学系研究科は、米国ワシントン大学保健指標・保健評価研究所など7つの機関との共同研究で2007年から始まった「世界の疾病負担研究」の成果を報告。世界の健康に関する動向が大きく変化していることを明らかにした。
最も顕著な変化は、世界の人口の大幅な高齢化だ。これまでは、感染症や栄養不足に関連した小児疾病が主要な死亡要因だったが、現在では、サハラ以南のアフリカ以外の世界の多くの地域で、子どもたちは成人まで生き延び、食糧不足よりも過食に苦しむ傾向があることがわかった。このような変化によって、かつては 1000 万人以上の5歳未満児の死亡によって早死が世界の疾病負担への最大の要因であったが、現在では、疾病負担の要因の大半が筋骨格系疾患や精神疾患、負傷などによるものとなった。このような負担は、人々が長生きするにつれて増えているという。
70、80代になったときの人生計画見直して
たとえば、栄養不足対策が大きな成功を収め、栄養不足による疾病負担は3分の2減少したものの、肥満や他の生活習慣関連危険因子が増加し、高血圧や喫煙、アルコール依存症などの疾患が主な疾病負担の原因となりつつある。食事の危険因子と運動不足は合わせて 10%の疾病負担の原因となっていて、肥満や高血糖に起因する疾病負担は大幅に増加している。
また、死亡や障害を引き起こす傷病のタイプも大きく変わりつつあることも示された。1990 年から2010年の20 年間で、10大死因のうち、虚血性心疾患と脳卒中は2大主要死因に留まったが、他の8つの疾患は入れ替わった。糖尿病や肺がん、慢性閉塞性肺疾患は上位に上がり、下痢や下気道感染、結核は順位を下げた。
米国ワシントン大学保健指標・保健評価研究所所長で「世界の疾病負担研究」創始者の一人であるクリストファー・マレー氏は、「本研究結果から、完全に健康な状態で歩いている人はほとんどおらず、人々は年をとるにつれて健康問題を蓄積することがわかってきている。本研究結果は、個人レベルでは、私たちが 70代や 80 代になったときの人生計画を再考する必要があることを示唆している」と述べる。
健康寿命をのばすためには、やはり日頃の食生活、運動などの生活習慣が大切だ。
◎東京大学
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