シルバーサービス振興会が主催する研究会「今後の認知症施策の方向性」の後半は、講師である厚生労働省老健局高齢者支援課認知症・虐待防止対策推進室長・勝又浜子氏が力を入れて語っていた「標準的な認知症のケアパス作成・普及」、「認知症初期集中支援チーム」、「身近型認知症疾患医療センター」について紹介する。
■認知症のケアパス普及には市町村の本気が必要
平成24年度介護保険法改正で、各市町村には住民のニーズ調査を行い、それを介護保険計画に盛り込むことが求められた。ところが、第5期介護保険計画にニーズ調査の結果を具体的に盛り込んだ市町村はわずか2割程度に留まった。
そこで、厚生労働省は来年8月頃までに、ガイドラインを作成し、各市町村に示す予定だという。つまり、どういう状態の認知症高齢者がどれぐらいいて、どういうサービスが求められているのか、専門医療機関をどう整備するのか、グループホームやインフォーマルサービスがどの程度必要かなど、何を調査してとりまとめれば認知症の標準的なケアパスを作成できるかを示すから、本気でしっかり取り組んでほしい、ということである。
市町村は、第6次介護保険計画に把握したニーズを盛り込む。そして、実情に即したケアパスを具体化し、それを市町村のホームページや配布するリーフレット等によって、本人や家族に周知することまで達成してはじめて、「標準的認知症ケアパスの作成・普及」だと、勝又氏はいう。
■イギリスの初期集中支援は日本でも有効か?
認知症の高齢者は行動・心理症状が悪化してから受診するケースが多く、現在、これが一つの問題点として挙げられている。そこで、早期受診によって行動・心理症状が出る前に予防的に対応できるようにするため、認知症初期集中支援チーム(以下、支援チーム)を設置することとしたと、勝又氏はいう。
支援チームのモデルとなったのは、イギリスでの取り組み。イギリスでは作業療法士、看護師、心理士などの専門職が2人1組となって、GP(家庭医)から紹介された認知症と思われる高齢者を家庭訪問する。そして、住環境等を見ながら、支援チームの1人が本人と接して身体や認知の状況についてアセスメントし、もう1人が家族から本人の状況を聞いてアセスメントする。すぐにも指導が必要なことについては、たとえば家族の認知症高齢者本人に対する接し方を指導したり、専門医療機関を紹介したりする。イギリスの支援チームは、4時間をかけて、1回の訪問だけでこうした一連の対応を行うという。
アセスメントの結果は認知症専門医に報告し、必要な支援や薬の処方について議論する。これをもとに再び家庭訪問を行い、おおむね6カ月で支援体制を調整したあと、ケアマネジャーに引き継ぐ。こうした初期の集中支援を行うようになって、イギリスでは大きな成果をあげているという。
現在、厚生労働省では研究班を立ち上げて実践をしながら、イギリス方式が日本でも有効か、1回4時間の訪問でアセスメントするのが適切かなどについて検証中とのこと。その検証を踏まえ、平成25~6年度に全国30カ所で支援チームのモデル事業実施を予定。その実施状況を検証し、平成27年度以降に支援チームを全国に普及するために制度化していく考えだ。モデル事業については、すでに10数カ所、やりたいと手を挙げている市町村があるとのことだった。
■専門医受診まで3~4カ月待ちの改善を
早期診断・治療、介護と医療の連携、介護・医療職のレベルアップの研修などを担う、認知症疾患医療センター(以下、医療センター)は、現在全国に180カ所。受診しようとすると、3~4カ月待ちという状態で、このために確定診断を受けるのが遅れている現状があるという。
勝又氏は、認知症は確定診断とともに除外診断も重要だと指摘。正常圧水頭症、甲状腺機能低下症、脳腫瘍など、認知症に似た症状のある認知症でない疾患の除外診断が遅れると、認知症様症状を長引かせることになるからだ。
このため、早期診断を担う医療機関を、平成24~29年度に65歳以上人口6万人に1カ所程度となるよう、約500カ所整備するという。現在、医療センターには、大学病院が指定されている全国8カ所の「基幹型」と、それ以外の「地域型」がある。
今後、整備する「身近型」医療センターは、的確な診断とかかりつけ医や地域包括との連携等を担うとされている。その指定要件については、病院なのか、有床診療所なのか、あるいは無床診療所でもいいのか、様々な意見があり、まだ結論は出ていないという。
以上、今後の認知症施策の方向性は示されたが、まだ不確定な部分は多い。ただ、厚生労働省が増加する認知症高齢者への対応を重要課題ととらえ、何とか体制を整えようという意欲を持っていることは伝わってきた講演だった。
◎厚生労働省 報告書「今後の認知症施策の方向性について」
◎「認知症施策推進5か年計画(オレンジプラン)」
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